2018.08.20

ConTECH.café

ヨッ、待ってました!
制震の「真打筒状(しんうちとうじょう)」!?

無謀な挑戦?文系ライターの制震技術ネーミング

ビルの地震対策には、耐震、免震、制震の三つがあることをみなさんご存じですよね。でも、その区別をハッキリと説明できるかと言われると、私には自信がありません。そんな理系知識のおぼつかないコピーライターが、実は、可変減衰オイルダンパーという小難しい制震技術のネーミングを担当していたりします。

今回はいつもと趣向を変え、ネーミング誕生までの製品理解と思考の様子を織り交ぜながら、この制震技術の「なるほど!」をレポートしてみます。その前に、三つの地震対策のあらましを簡単に。

耐震は、ビルの構造をがっちり強く、粘り強く造り、人命にかかわる倒壊や崩壊が起きないようにします。また、ビル本体と基礎の間に積層ゴムなどを入れて、地面の激しい揺れが上部のビルに伝わらないようにするのが免震。そして制震は、揺れを小さくしてビルの損傷を抑えるために地震エネルギー吸収装置を付加するもの。

今回のお題である可変減衰オイルダンパーは、この地震エネルギー吸収装置にあたります。それも、これまでのものとはひと味もふた味も違う、優れモノです。

そもそもダンパーとはなんぞや?

みなさんはダンパーという言葉になじみがありますか。当初、それを耳にして私はキョトンとしました。しかし、自動車のサスペンションにスプリングと一緒に装着して路面の凹凸を吸収するショックアブソーバーと同じだと説明を受けガッテン!

その基本原理は、粘性の高いオイルを満たした筒(シリンダー)のピストンのロッドからビルの揺れを伝えて、ピストンのストロークを油圧抵抗でコントロールするものです。注射器を押す時のあのグググッと親指に感じる抵抗を思い浮かべるとイメージしやすいですが、オイルが通り抜ける隙間を空けている点が注射器と違います。油圧抵抗値はピストンが動く孔にある減衰バルブで調整します。

その構造に新しくピストンを貫通する追加孔と、追加孔を貫き軸方向に伸びる切替ロッドを加えたのが可変減衰オイルダンパーです。切替ロッドは中央部が細く両端が太い形状にし、ビルの揺れ幅が小さい中小地震時には追加孔と切替ロッドの隙間からオイルがスルッと通過するので小さな油圧抵抗しか生じず、免震積層ゴムの変形を最小限に抑えます。揺れ幅が激しくなる巨大地震時には、追加孔を切替ロッドの太い両端部が塞ぐため油圧抵抗が高くなり大きな減衰力を発揮。それにより、長周期地震動と共振する積層ゴムへの大きなダメージを抑え、免震ピットの擁壁へのビルの衝突リスクを低減するわけです。この切替は自動的に行われ、そのうえメンテナンスフリーです。


  • 見た目は単なる筒。だが、このなかには工夫が一杯

  • 可変減衰の仕組み

こうした画期的な特徴を、パッと見ただけで聞いただけで、「なるほど!」とイメージされるネーミングに。それが私へのミッションだったのです。

自動減衰性能二段切替式オイルダンパー。…?????

特徴をとりあえず名前らしきものにしてみると、こんな漢字ばかりの長ったらしいものになってしまいます。これでビルオーナーや設計の方が「採用したい」「詳しく知りたい」と思われるでしょうか。

ではではと、とにかく思いつく言葉を並べてみます。オート2ウェイ、スマート2ウェイ、W(だぶる)スイッチング、Wチェンジャブル、ディペンW等々…。

そしてようやく「コレだ!」とひらめいたのがデュアル。二段階自動切替そのものを一語でズバリです。それが決まると、すんなりとフィットが。フィットネスというと、ダイエットと狭く理解されていますが、本来は現在のコンディションをあるべき最良の健康状態へと整えることを意味します。まさに「揺れ幅に応じて最良のパフォーマンスを発揮する」機能を表現するワードは「コレっきゃない!」。

こうして生まれた可変減衰オイルダンパー改め「デュアルフィットダンパー」ですが、ダジャレ好きでインパクト重視の私がオススメしたのは「真打筒状(しんうちとうじょう)」。

…すみません。ダンパーさえ知らなかった私には、ただの筒(つつ)にしか見えなかったものですから。

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト