2018.08.06

テクニカルニュース

維持・保全

コンクリート構造物の万能薬「タフネスコート」が実用段階に

当社は、塗るだけでコンクリート構造物の機能を保持・向上させる技術「タフネスコート※1」を実用化。トンネル覆工をはじめ、高架橋や配水池など、社会や産業を支えるインフラ構造物への展開を進めています。

高度成長期に建設され、竣工後30〜50年を経たインフラの劣化対策や機能保持は、大規模自然災害への備えとしてはもちろん、事故防止の観点からも対処すべき課題の一つです。しかし、その数は多く、更新はもちろんのこと、補修・補強にさえ、膨大な時間とコストを必要とします。

タフネスコートは、コンクリート構造物の表面にポリウレア樹脂を吹き付けるだけで、構造物が必要とする4つの機能(剥落防止・保水性・耐久性・衝撃性能)を保持・向上させる技術です。施工法も簡便であり、新設・既設を問わず適用可能です。本技術は、これまで主流であった事後保全や部材の補強という発想を転換し、予防保全と直接的な機能保持という観点から、コンクリート構造物の合理的な維持管理と長寿命化を実現します。

さらに将来的には、自動吹付装置の開発やロボット化などにより、安全性と生産性、品質の向上を図るとともに、適用範囲を拡大し、21世紀における社会・産業インフラの機能保持・向上に貢献していきます。

当社と三井化学産資(株)の共同開発。平成29年度土木学会技術開発賞受賞

タフネスコートの施工風景
タフネスコートの施工風景

タフネスコートの概要

技術の概要

タフネスコートは、コンクリート構造物の表面に髙ひずみ樹脂(ポリウレア樹脂)を吹き付けることにより、構造物に必要とされる以下の4つの機能を保持・向上させます。

落ちない(剥落防止)

  • 対象構造物を膜厚1.5mmで被覆した場合、1.5kN(150kg)までのコンクリート片の剥落を防止
  • トンネル覆工実験では、圧縮破壊しても大変形時まで最大荷重を保持
  • トンネル坑口の剥落防止
    トンネル坑口の剥落防止
  • 鉄道高架橋の剥落防止
    鉄道高架橋の剥落防止

漏水しない(保水性向上)

  • 水槽内を膜厚2.0mmで被覆した場合、最大ひび割れ幅10mm、最大水圧0.3MPaまで保水性を確保(大規模地震時における貯水槽のひび割れ幅は2.0mm〜3.0mm程度)
  • 上水道用配水池
    上水道用配水池
  • 調圧水槽
    調圧水槽

劣化しない(塩害・凍害に対する耐久性向上)

  • 塩害に対して、膜厚1.0mmの場合、塩分透過量は基準値※2の1/50および1/500
  • 膜厚1.0mmで、鉄筋の発錆限界までの到達時間を約10倍に延長
  • 凍害に対して、膜厚2.0mmの場合、外部からの水分侵入を阻止でき、凍害(凍結融解サイクル300回)に対する性能低下はほぼ0%

(1)一般環境のPCまたはRC構造物は1.0×10-2mg/cm2・日以下、(2)特に厳しい環境、塗替困難な部位は1.0×10-3mg/cm2・日以下(日本道路協会)

橋梁地覆(橋の欄干の基礎)での試験施工
橋梁地覆(橋の欄干の基礎)での試験施工

倒れない(衝撃性能向上)

  • 壁高欄※3破壊時のコンクリート片剥落を防止(構造体の前面よりも裏面への施工が有効)
  • 構造体に復元力が発生。構造崩壊に対する安全性が1.5倍に向上

■構造崩壊(破壊接地)までの衝突実験結果

タフネスコートなしの場合、レベル2で破壊接地。タフネスコートありの場合、レベル3で破壊接地。

  衝突繰り返し回数(重錘落下高さ/落下回数)
レベル0
300mm/1回
→レベル1
50mm/5回
→レベル2
100mm/5回
→レベル3
150mm/3回
タフネスコートなし 破壊接地
タフネスコートあり 破壊接地

橋の両端に設けられるコンクリート製の柵(欄干)の一種

施工は簡便。新設・既設を問わず適用可能

本技術は、専用装置を用いた吹付工法により、広範囲を短時間で施工することができます。吹き付けられたポリウレア樹脂は、瞬時に硬化するため液ダレしません。また、強度の発現も早く(最短2日程度)、新設・既設を問わず適用可能であるなど、他の補修・補強工法にはない利点を備えています。

  • 吹付装置
    吹付装置
  • スプレーガン
    スプレーガン

ポリウレア樹脂の材料特性

本技術に用いられるポリウレア樹脂は、酸・アルカリに強く、耐候性に優れ、毒性もないため、従来から構造物の防水や防食に使用されていました。これらに加えて、引張強度が大きく(24N/mm2)、200%程度まで引き伸ばしても破断しないなど、優れた力学特性を持っています。

よく似た素材としては、エポキシ樹脂やポリウレタン樹脂などがありますが、エポキシ樹脂は引張強度が大きい(70N/mm2)反面、5%程度しか引き伸ばすことができず、ポリウレタン樹脂は400%程度まで引き伸ばすことができる反面、引張強度が小さい(12N/mm2)ため、本技術には強度と伸びの双方に優れたポリウレア樹脂が採用されています。

なお、ポリウレア樹脂は耐候性に優れているため、吹付後15年程度経過した後も、引張強度、伸びのいずれも約75%の性能を保持することができます。

材料比較

  エポキシ樹脂 ポリウレア樹脂 ポリウレタン樹脂
強度(N/mm2 70 24 12
伸び(%) 5 200 400

平成29年度土木学会技術開発賞受賞

タフネスコートは、コンクリート構造物の合理的な維持管理・長寿命化に有用性が高く、安心・安全な社会の実現に大きく貢献できるとして、平成29年度土木学会技術開発賞を受賞しました。詳しくはこちらをご覧ください。