2023.10.10

特集

スタートアップ企業とのコラボレーション

建設業ならではのAI活用とは

近年、AI活用の分野はますます拡大を続けています。そんな中、建設業が力を入れる分野はどこか。清水建設のAI活用のこれまでと最新の取り組みを通してご紹介します。

左から、Lightblue社 古川氏、園田氏、技術研究所 ロボティクス研究センター 古川慧、副所長 中村健二
左から、Lightblue社 水口氏、社長 園田氏、技術研究所 ロボティクス研究センター 古川慧、副所長 中村健二

全社横断でAI活用の道筋を探る

近年、ディープラーニングとデータの質・量、マシンパワーの増強によって、AI自体の性能が大幅に向上する中、さまざまな分野でAIを業務に活用しようという動きが活発になりました。清水建設でも社内で2014年頃にAI勉強会をスタートしています。その頃の話を清水建設でAI活用の推進に携わってきた中村に聞きました。

  • AI勉強会はどんな雰囲気でしたか?

  • 中村

    第1回勉強会には設計や土木、総務系の人たちも含め、大会議室がいっぱいになるくらいの人数が参加しました。当時のブームに乗り遅れるなという雰囲気があって、各部門がそれぞれ活用の可能性を探っていたように思います。

  • 勉強会をきっかけにその後どのような活用事例が生まれたのでしょうか?

  • 中村

    2015年に太陽光発電の発電量予測、2016年頃には視覚障がいがある方の移動をサポートする「インクルーシブ・ナビ」など、実務への適用も進み出しました。

  • 2019年にAI推進の専門部署が発足しました。それ以来どのような分野でのAI活用に力を入れてきましたか?

  • 中村

    建設会社として「生産性と安全性向上」が非常に重要な分野だと考えています。現在10数件のテーマが進行中です。加えて業務効率化や社員のAI・データサイエンススキル向上にも取り組んできました。

AI活用の推進に携わってきた中村
AI活用の推進に携わってきた中村

AIスタートアップ企業とのコラボレーション

「生産性と安全性向上」の分野でのAI活用の一例が、画像認識を活用して現場での重機と人の接触を回避する「車両搭載型安全監視カメラシステム『カワセミ』」です。これはAIスタートアップ Lightblue社(以下、LB社)とのコラボレーションによるもの。清水建設サイドで開発を担当する古川は、社内でも早い段階からAIに着目して独自に研究開発を進め、第1回AI勉強会では、当時開発中の太陽光発電量予測にAIを活用するシステムを先行事例として紹介した研究員です。

  • コラボレーションのきっかけを教えてください。

  • 古川

    2019年頃から協力会社を探したのですが、スタートアップとどのようにお付き合いすればいいのか、こちらも手探りでした。そんな中、技研メンバーの大学の後輩というつながりで、LB社を起業したばかりの園田社長を紹介していただきました。

「車両搭載型安全監視カメラシステム」の開発を担当する古川
「車両搭載型安全監視カメラシステム」の開発を担当する古川

LB社は東京大学大学院でAIを研究していた園田亜斗夢氏らが在院中の2018年に起ち上げた、AIを専業とする会社です。

  • 清水建設とのコラボレーションについてどう思われましたか?

  • 園田氏

    母方の実家が九州で林業を営んでおり、かねてから現場の安全管理や労災の防止には関心があったので、建設領域で実績を作るチャンスになると感じ興奮しました。

Lightblue社 社長 園田氏

使い勝手に優れたシステムを目指し現場の声を反映

LB社とのコラボレーションで開発された重機と人の接触を回避するシステムは、重機にカメラを取り付け、映像をリアルタイムで解析して、AIの画像認識により特定のエリア内に人がいる場合に、重機オペレーターにアラートを出すという仕組みです。

動画:AIによる画像認識の様子(0:30)
赤は「危険」、黄は「注意」、緑は「安全」を示し、同じ距離でも顔の向きで警告レベルが変わる
  • どのように作業を分担し、お互いの強みを生かしながら協力して作業を進めていきましたか?

  • 古川

    私たちはデータ取得や実証実験のために実際の現場を提供したり、あるいは建設現場特有のドメイン知識、たとえば、手押し車を押している状態では足が認識できなくなるといった知識を共有しアルゴリズムを考案したりしました。AIアルゴリズムの実装をはじめ、カメラのキャリブレーションや取り付け方法、製品としてのパッケージのあり方などはLB社のみなさんが知恵を絞ってくれました。

  • 園田氏

    古川さんたちの情報はもちろん、むやみにアラートが出てしまうようでは重機オペレーターの心理的負担になってしまうということで、顔の向きを認識して、重機に顔が向いていればその人は重機に気づいているのでアラートを「危険」から「注意」にするなど、現場でオペレーターさんの生の声をたくさんお聞きし、工夫を重ねながら開発を進めました。

  • 両社のコラボレーションにより、ユーザーや現場での使い勝手を徹底的に考え抜かれたシステムとなりました。

  • 古川

    データを提供してくれればAIを作るというスタンスの会社が多い中、園田社長をはじめLB社スタッフのみなさんは、現場に出ることを厭わずにデータ取得から積極的に取り組んでくれました。そうした姿勢、熱意は本当にありがたいです。

  • 水口氏

    トンネル工事の現場は埃がすごいと事前に聞いていましたが、ほんの30分で身体も機材も埃まみれになるとは想像していませんでした。そうした環境でもきちんとAIの精度を上げていくためにはどうすればいいのか、その場に行かないと答えは導き出せないので、現場に出ることがいかに大事かがわかると同時に、建設業って大変な仕事だと改めて感じました。

Lightblue社 水口氏
Lightblue社 水口氏
トンネル現場内で作業中の水口氏(中央)
トンネル現場内で作業中の水口氏(中央)

LB社と清水建設のコラボレーションは互いへのリスペクトをベースに、AI活用の可能性を今日も拡大し続けています。