2018.11.05

ConTECH.café

高速道路と団地萌え

渋滞中、「良からぬ雑念」がむくむく…

里帰りはクルマを使う。だいたい連休をはさんでなので、ほぼ何か所かで渋滞に引っかかる。難関はいくつもあるが、先日の帰省では高速道路のトンネル内でハザードランプ、パッパ。

あ〜ぁ、と声にならないため息をつき、前方と上と左右に、つまり側壁と天井になんとなく視線を泳がせる。

「なんて汚いんだこの側壁。あそこ、ヒビじゃないの。あっ、あそこも、シミみたいに真黒くなってる。ここも、あそこも。ああ、いま天井が剥がれ落ちたら…ああああああ」と、気が気じゃない。B級パニック映画でよく見かけるヘタレでトホホのその他大勢の気分だ。

のろのろと動き出す。しかし、またすぐ止まる。そのたびに、マイナス思考が加速する。その時、天井から、聞きなれた声がした(ような気がした)。

「ボーっと生きてんじゃねーよ!」

…NHKの人気番組「チコちゃんに叱られる!」の5才のチコちゃんである。

「コンクリートから人へ」。そうだったのか!とふむふむ

トンネルを抜けて地上に出ると、大都会東京の夜景が、前に、左右にひろがる。チコちゃんの一喝で余裕が少し生まれたのか「宝石箱や~」と有名食レポタレントの彦摩呂になる。

またまた渋滞。防音壁が目に入る。道路との際には雑草が繁茂している。

だが「こんなに排気ガスだらけで、ちゃんとした土もないところでしか居場所がないとは、なんともけなげなことよ」と同情は禁物だ。雑草にとって、この場所こそ、競争相手は少なく、のびのびと生長できる願ってもない別天地なのだ。二ッチ、あるいはブルーオーシャンという、ビジネススクールで「勝者の戦略」と教えることを、雑草は、とっくの昔から当たり前に実践してきたにすぎない。やっぱり人間ってやつは、自然界にあっては、まったくの新参者なのだ。

高速道路のトンネルで感じたほど汚くはないのだが「大丈夫?」という思いが頭をかすめる。したたかでたくましい雑草が、隙あらばと、一点突破・全面展開でコンクリートをじわりじわりと侵食していく。それに、雨風や日差し、排気ガスの影響、振動が加わる。ふと「コンクリートから人へ」というスローガンが脳裏をかすめる。2009年の歴史的な政権交代を導いたスローガン。政策の転換を表したものだが、「コンクリートから人への警告(というより特別警報)」と解したほうが腑に落ちる。

いま、高度経済成長期の道路や橋などの社会的インフラが、目にはっきりと見える状態で危機に瀕している。メタボのように知らず知らずに進行し、判明時には「手遅れ」なのではなく、誰の目にも「ヤバい!」状況があっちにもこっちにも。しかし、その手当てはそんなにはなされていない。

隣県のパン屋に向かうときに渡る県境の橋は、とても怖い。欄干の塗装はハゲて、地肌はサビてむき出し。ところどころ穴も開いている。それを支えるコンクリートは、欠けていたりヒビ割れが。色も、シミのように黒ずんだり、一様でない。ここで、地震があったら…。

散歩中、古びた団地の前で雑念しみじみ

わたしが住む足立区は、高度経済成長期、東京の発展を担う特に東北からの働き手のための公営の住まい全体のけっこうな割合を引き受けてきた。だからいまも、そこかしこにその頃の団地が残る。散歩が唯一の「運動」のわたしは、ほぼ毎回、どこかの団地の前を通り過ぎ、大団地はその敷地内をうろちょろする。小学時代、父の転勤で3年ほど団地に住んだ。それが原体験なのか、以来、団地という建物が嫌いではない。

ある日。周りは高層に建て替わったのに、まだ解体もされず、ポツンと残る1棟。ヒビだらけ。雑草も伸び放題。廃墟そのもの。指でツンツンとつつけば、いまにもガラガラと崩れそうだ。人生の白秋にいるためか、この頃は、前に来るたびに、フェンス越しに、しばし黙って見つめ合い、会話する。

また、ある日。かつては何棟もあったらしい、いまは2棟だけの団地。敷地はいつも小ぎれいにされ、花壇には季節の花が必ず咲いている。ここで、レンギョウとヤマブキの見分けができるようになった。たぶん、ここの人たちは丁寧に暮らしておられるんだろうなぁ。

ひとつ、気がかりなのは、塗装されているとはいえ外壁に走る大小のヒビ。目を凝らすと、修繕された跡があり、その上に、また新しいのが、長いのや、短いのや。深そうなのは、欠け落ちている個所もある。内側の通路など共用部分や室内もたぶん、推して知るべし。満身創痍。思わず、そのことばが浮かんだ。

他人事ながら、見るのがつらい。心配だ。どうにかならないものだろうか。わたしの散歩コースの、ささやかなお気に入りの景色なんだ。どうか、このままで…。

ある日。ネットを散歩中、「メンテナンスがガラリと変わる!」という記事が。吹き付けるだけでコンクリートの剥落を防止できるとある。ふむふむ。いいね!

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト