2018.05.27

ConTECH.café

人間も、震源になる!?

その夜、残業中の社員は身構えた。地震!?でかいぞ!

突然襲ってきた激しい横揺れに「船酔いになったようだった」。オフィスで残業していた社員は、中腰で身構えたまま、互いに目と目で語り合った。地震?とっさに誰かがテレビをつけた。だが、いつまでたっても地震速報のテロップは出ない。あれ?まだ揺れてるよね。うん、揺れてる。地震だよね、これ。でも速報は出ない。一体、この揺れは何なんだ!?不安げに社員たちは、互いに見つめ合った。

後日、その「地震」の思いがけない正体が判明した。

震源は、なんと揺れたオフィスから約50メートル離れたライブハウスだった!収容人数約2,500人というビッグスケールのライブハウスは、その日、人気バンドがこけら落とし公演を行っていたのだ。2,500人が一斉にジャンプする。それも何度も何度も。想像するだけで、凄まじい迫力だ。耳をつんざく大音量と、ドスン!ドスン!ドスン!の連続。

ライブの愉快、ガイブ(外部)の不愉快。

もともと人間は「飛び跳ねる」のが大好きだ。子どもは、スプリングがきいたベッドとかソファーとかで、すぐその上で飛び跳ねる。実に楽しそうだ。思わず仲間に入りたくなる。本能である。だから、トランポリンという競技を発明した。毎年夏になると、青森の人たちは一心不乱に跳ねに跳ねる。らっせーらー、らっせーらー、らっせ、らっせ、らっせーらー。

音楽もまたそうである。心地いいサウンドが、自然とからだを共振させる。バラードとかブルース、ユーロジャズなんか、思わずゆーらゆーら左右に揺れる。ハードロックやパンクになると、ピョンピョン飛び跳ね、時に脳震盪を起こすのではと余計な心配するほど激しくヘッドバンキングする。タテノリと言われるジャンプだ。これがなかったら、ライブの魅力は半減どころではないだろうな、たぶん。クラシックコンサートのように、咳払いにも気を使い、居住まいを正して静かに耳を澄ますのではなく、ノリも含めてカラダでも愉しむものなんだ、ライブとは。

しかし、揺れや音が外部に伝わってしまうと、ファン以外にとっては甚だ迷惑であり、大きな環境問題になる。事実、法律的には、後から立地する側に、振動や騒音の防止義務があるようだ。先にオフィスビルがそこにあり、後からライブハウスが移転してきたから、ライブハウス側に建物や設備の十分な対策が求められるわけだ。

一方で、お客さんに事前のアナウンスなしに「タテノリ禁止」にしたら、ライブハウス側はお客さんへの債務不履行として訴えられる可能性もあるらしい。やっかいなことだ。ファンは純粋にライブを楽しみたいだけだけれど、ライブハウスと周辺との関係が、ライブを100パーセント楽しめない状況にしている。こうした残念なケースがけっこう増えているのだ。ああ、悩ましい。

解決のヒントは、意外なところに。

この新しい環境問題対策に、まだ「コレだ!」という決定打はないらしい。「周辺地域の迷惑になりますので静かにして鑑賞してください」といったライブハウスのアイデンティティを自らが否定するようなエクスキューズをするところもあり、影響の出ないへんぴなエリアへの移転を余儀なくされるところもあるとか。集客を見込めるアクセスの良い場所であるほど、周辺への影響は大きく、事前の影響把握と十分な設備投資ができていないと、こうした本末転倒を招いてしまうのだろう。

けれど、明るい兆しも見え始めている。

聞くところによると、建物への地震対策技術の応用が進んでいるらしい。そうか、地震と同じじゃないか。ライブハウスが揺れを出しているのであれば、揺れを抑えるのか、揺れを吸収するのか。

想像してみる。ライブ大好きな構造設計の技術者が、ノリノリで「なんだよ、コレ。結局、地震対策と同じじゃん!!」とシャウトしている。パンクだ。きっとこのひらめき、実現の日は近い。ワクワクする。

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト
参照資料