2016.03.10

テクニカルニュース

防災・減災

地震の揺れから構造物を守る免震・制震技術

当社は、去る2月4日(木)から5日(金)まで、パシフィコ横浜にて開催されました「震災対策技術展」横浜において、専門技術者によるセミナーを行いました。本展示会は、国内の地震・自然災害対策関係者が一堂に会する日本唯一の技術見本市・シンポジウムで、今回で20回目の開催となります。

昨年12月に、内閣府が公表した南海トラフ巨大地震の長周期地震動予測は、地震災害の恐ろしさと事前対策の重要性を改めて浮き彫りにしました。また、国土交通省では、超高層ビルなどの耐震性強化を進める方針を固めています。

こうした背景を踏まえ、当社セミナーでは「地震の揺れから構造物を守る免震・制振技術」と題し、制震装置「ダイナミックスクリュー」と免制震複合システム「スイングセーバー」について適用事例を交えながらご紹介しました。いずれの技術も、今後発生が危惧される巨大地震に対する建物の構造安全性確保はもちろん、長周期地震動特有のいつまでも続く後揺れ時間の短縮に効果を発揮します。

制震装置「ダイナミックスクリュー」と適用事例

制震装置「ダイナミックスクリュー」※1は、錘の力で建物の揺れを抑えるTMD(Tuned Mass Damper)の一種です。一般的なTMDは錘の自重を増やすことで制震効果を高めますが、本装置は建物の揺れを回転運動に変換することで、自重の4,000倍以上の錘と同等の制震効果を発揮します。

発生が危惧されている南海トラフ巨大地震では、首都圏をはじめとする大都市の超高層ビルがゆっくりと大きく長く揺れる長周期地震動に見舞われる可能性があります。本装置は、こうした長周期地震動から超高層ビルを守ります。

カヤバシステムマシナリー(株)、日本精工(株)、平和発條(株)との共同開発

ローコスト・短工期で巨大地震から歩行振動まで制震。適用範囲も拡大中

ダイナミックスクリューは、ビルの低層階に集中配置することで効率的にビル全体の揺れを抑えることができるため、各階に制震装置を分散配置する構法と比較して、ローコスト・短工期を実現します。


歩行振動対策用ダイナミックスクリュー

また、揺れの特性に合わせて錘の大きさや取り付け部材を調整することで、従来の免震構造では抑えられなかった上下方向の地震動や、歩行等による床振動も制御可能です。

本装置は適用範囲が広く、超高層ビルに限らず、大規模生産施設の制震改修工事にも採用されるなど、その用途は拡がりつつあります。

適用事例
鉄骨造24階建物の耐震改修

ダイナミックスクリューは、「シーバンスS館」の制震改修工事にも適用されました。

従来の制震装置の1/3程度の台数で同等の制震効果を発揮

工事では、シーバンスS館の1~7階の28箇所にダイナミックスクリューを配置しました。1台あたりの錘の重量は0.6tですが、建物の揺れをダンパー内部の錘の回転運動に変換することで、2,500tの錘と同等の制震効果を発揮するため、従来の制震装置に対して1/3程度の台数で同等の制震効果を得ることができます。

シーバンスS館に適用したダイナミックスクリュー

関東大震災の2倍規模の超巨大地震に対しても構造安全性を確保

本工事により、シーバンスS館は、1923年の関東大震災を引き起こした地震の規模を2倍に拡大した超巨大地震に対しても、構造安全性を確保できる制震ビルに生まれ変わりました。

また、東日本大震災でのシーバンスS館の挙動を改修前後で比較すると、最大片振幅を49cmから29cmに、最上階の最大加速度を233ガルから155ガルに、揺れの継続時間を400秒から220秒に低減できることを確認しています。

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免制震複合システム「スイングセーバー」と適用事例

免制震複合システム「スイングセーバー」は、免震建物と耐震建物の揺れの違いを利用し、制震部材で効率よく地震エネルギーを吸収するものです。

本システムは、免震建物に作用する地震力を通常の免震構造の場合と比べて20~30%程度低減することができます。

また、建物外周部および室内の梁の厚みや柱の幅を通常の免震構造の場合よりも小さくすることができるため、超高層マンションに適用した場合は住戸デザインの自由度が向上します。

適用事例
超高層マンションへの適用検討

スイングセーバーを適用した超高層マンション「ベイズタワー&ガーデン」は、ロの字型に配置された住戸棟と、その住戸棟に囲まれて建物中央に位置するタワーパーキングを内包した棟から構成されています。住戸棟は免震構造、タワーパーキング棟は剛強な耐震構造となっており、数フロアおきに双方を制震部材で連結しています。

免震と制震で、地震エネルギーを効率よく吸収

地震時には、ゆっくり大きく揺れる免震構造の住戸棟と、短い周期で揺れる剛性の高い耐震構造のコア(タワーパーキングを内包した棟)を、制震部材で連結することにより、二つの建物の揺れの違いを利用して効率よく地震エネルギーを吸収し、免震構造である住戸棟に作用する地震力を、低減させます。

安全性の向上に加え、住戸デザインの自由度を向上

本システムは、住戸棟の地震力を低減できることにより、住戸デザインの自由度が向上します。「ベイズタワー&ガーデン」では、建物外周部の梁の厚みを通常の免震構造の3/4以下の60cm弱にすることが可能となり、階高が同じ建物より20cm高い、約245cmのサッシュを採用しています。また、柱の幅も見つけ方向(住戸内から見た場合の柱幅)で20cm程度細くでき、明るく広々とした開放感を得ることができます。

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