2018.12.25

テクニカルニュース

施設価値向上

“縦ノリOK!”の防振床システム「ダイナミック・ライブ・フロア」

当社は、ライブハウス等における観客の“縦ノリ”が引き起こす環境振動問題を解決する防振床システム「ダイナミック・ライブ・フロア」を開発しました。

近年は、ライブハウスや各種ホールなどで催されるイベントにおいて、観客が音楽のリズムに合わせて上下方向に小刻みに跳躍する動作 、いわゆる縦ノリが周辺建物にまで振動被害をもたらすという事例が報告されています。こうした縦ノリによる環境振動問題に対して、これまでは有効かつ経済的な対策技術が存在せず、観客に縦ノリを禁ずる、もしくは縦ノリを誘発する公演を見合わせるなど、運用面で対応せざる得ませんでした。

本システムは、ライブハウス等の床を建物から切り離して浮き床とし、建物基礎と浮き床の間に防振ユニットを配置することで、建物基礎に伝わる縦ノリの振動を1/10程度に低減するものです。防振ユニットには、当社が超高層ビルの長周期地震動対策技術として開発した制振装置「ダイナミックスクリュー」を組み込むことで、実効性と経済性を確保しています。

今後、当社は、周辺建物との距離を充分に確保することができない都市部に計画されているライブハウス等に、本技術を積極的に提案していきます。

ダイナミック・ライブ・フロアを適用したホールのイメージ
ダイナミック・ライブ・フロアを適用したホールのイメージ

「ダイナミック・ライブ・フロア」の概要

ダイナミック・ライブ・フロアは、ダイナミックスクリュー(当社独自技術)、オイルダンパー、ばね部材、水平拘束材を組み合わせた防振ユニットで、厚さ約1mの浮き床を支える構成となっています。

システム構成図
システム構成図

防振ユニット

収容人数が1,500人規模のライブハウス(フロア面積500m2程度)を想定した場合の防振ユニットの構成は以下のようになります。

ばね部材

ばね部材として、皿ばねを複数枚重ね合わせたユニットを構成し、浮き床の自重を負担すると同時に、床の上下振動の周期を調整します。

ダイナミックスクリュー

ダイナミックスクリューは、軽い錘を回転させることで大きな質量効果(回転慣性質量)を得ることができる当社の独自技術で、100t程度の力を必要とする場合、100kg程度の錘で十分な効果を得られます。

また、ばね部材にかかる力を押し返す力として作用するため、地盤に伝わる力を小さくすることができます。

オイルダンパー

ばね部材とダイナミックスクリューで最小化した振動を減衰させる役割を担います。内封されたオイルの抵抗によって徐々に力を弱めることで、不快な揺れを素早く収束させ、揺れ続けることを防ぎます。

水平拘束材

振動を吸収するために、床は建物そのものと切り離されています。床と建物の間に設けられたクリアランス部分には、システムの効果を最大限に発揮し、また損傷を防ぐために、水平方向には動かず上下方向にはスムーズに動く部材が取り付けられています。

振動低減の仕組み

ダイナミック・ライブ・フロアは、床の振動でばね部材に生じる力を、ダイナミックスクリューが押し返すことで、地盤に伝わる力を低減する仕組みとなっています。

ばね部材の反力をダイナミックスクリューの反力が打ち消しているイメージ
ばね部材の反力をダイナミックスクリューの反力が打ち消しているイメージ

一般に、衝撃吸収力は柔らかく支持された床の方が高いため、振動問題解消のために床を柔らかいばねで支持するという対策が考えられます。しかし、柔らかすぎる床はフワフワとして歩きづらいという難点があります。例えば、ばねとダンパーだけで浮き床を構成する場合、縦ノリ振動で問題になる周波数帯域(2.0~4.0Hz)の揺れを1/10以下にするためには、ばねの固有振動数を0.6Hz程度まで柔らかく(揺れやすく)する必要があり、通常使用時において問題が生じる可能性があります。

一方、ダイナミックスクリューを導入すると、ばねの固有振動数を1.0Hzまで上げることができ、通常使用でも問題のない床の固さと縦ノリ振動に対する十分な防振力を両立させることができます。

反力応答倍率:加振力に対する、地盤に伝わる反力の比
※反力応答倍率:加振力に対する、地盤に伝わる反力の比

加振実験によりシステムの効果を検証

本システムの開発にあたっては、当社技術研究所において床を想定した試験錘(14.6t)を用いた加振実験を行い、固有振動数1.0Hzの床に縦ノリによって生じる2.0〜4.0Hzの振動を加えた場合に、その揺れにより地面に伝わる力を1/10以下に抑えることが可能であること確認しています。

また、防振ユニットに用いるダイナミックスクリューの回転錘の重さを変更することで、防振効果の調整ができることも確かめられました。

加振実験の様子
加振実験の様子
  • 対象とする振動数を1/10以下に低減
    対象とする振動数を1/10以下に低減
  • 慣性質量値の変更により、効果の高い範囲を調整可能。(慣性質量比=慣性質量/試験錘質量)
    慣性質量値の変更により、効果の高い範囲を調整可能
    (慣性質量比=慣性質量/試験錘質量)