2023年9月1日は関東大震災からちょうど100年にあたります。それに先立ち、7月26日、清水建設技術研究所において、大地震に対する備えの必要性を訴えることを目的に「関東大震災100年 地震体験セミナー」が開催されました。目玉は最新の地震動シミュレーションと先端地震防災研究棟の大振幅振動台「E-Spider」により実現した100年前の大地震の揺れの再現です。報道機関が多数参加したこのセミナーに、ライター・野崎も参加してきました。その模様をお届けします。
未だに研究対象となっている関東大震災の揺れ
セミナーは技術研究所の宮腰淳一主席研究員と小穴温子研究員による講演「関東大地震と首都圏で想定される大地震」からスタートしました。
講演では関東大震災以前にも首都圏の直下でマグニチュード8クラスの巨大地震が発生していることが過去のデータから示されました。
また、当時としては最先端の鉄骨鉄筋コンクリート造の建物における構造被害がなかったことなどを受けて、震災後の建物被害調査の結果をもとに建物の耐震基準が策定された歴史的経緯を振り返りました。
筆者が特に印象深かったのが、関東大震災の揺れは、実はまだその全貌が明らかになっていないということでした。当時の地震計では正確に計測できていなかった部分があり、100年が経過した今でも研究対象になっているというのです。
今回の地震体験は、最新の研究成果をベースに、当時アナログな針の動きでは追従できずに計測できていなかった短周期成分と、地震計の計測範囲を超えたことで全貌が記録できなかった長周期成分をシミュレーションで再現しつつ欠測部分を補完し、それらを合成して得られた再現波形にて実施するとのこと。
実は筆者、他社実験施設で関東大震災相当の揺れを体験したことがあります。ただしそれは10年近く前のこと。今回最新のシミュレーションをもとに実施される地震体験ではどのような揺れ方になるのか、興味津々での参加となりました。
関東大震災を引き起こした地震に超高層ビルで遭遇したら?
講演の後、グループに分かれ、大振幅振動台「E-Spider」による地震体験に参加しました。
関東大震災 3種類の地震体験
- 1. 東京・大手町付近における地面の揺れ
- 2. 高さ150mの一般的な超高層ビルが1と同じ場所に建っている場合の最上階の揺れ
- 3. 高さ150mの清水建設の最新の制振システム「BILMUS(ビルマス)」を採用した超高層ビルが1と同じ場所に建っている場合の最上階の揺れ
安全のためにヘルメットを被り、「E-Spider」の地震体験キャビンに搭乗。シートに座り、シートベルトをしてその時を待ちます。
最初は、大手町における地面の揺れです。細かく身体が揺さぶられるような揺れで、もしもシートに座っておらず、身体を支える手すりなどがなかったとしたら、とても立っていられないくらいの激しい揺れでした。
続いて、高さ150mの超高層ビルの最上階の揺れです。
こちらは地面の細かな揺れとは違い、ゆっくりと大きく、しかも長く続いて、室内でキャスターつきの椅子や什器が動き回ったり、引き出しが飛び出したりするような揺れ方で、家具の固定など地震対策の重要性を改めて感じました。
そして、最後に今回のハイライトともいうべき、最新の制振システム「BILMUS」が採用された場合の揺れです。こちらは揺れ始めこそ1と2の体験と同様に大きく感じられたものの、その後、少しずつ揺れ幅は小さくなっていきました。体感では「BILMUS」が採用されていない一般的な超高層ビルの場合より、揺れ幅は半分以下程度に感じられました。説明によれば加速度は1/3程度に抑制され、震度も6弱から5弱になっているなど、明らかな制振効果を裏付けるような数値となっていました。
「BILMUS」は建物の上層部と下層部を構造的に独立させ、互いの揺れを相殺するように動くことで、地震時の建物内部の揺れを従来と比べて半分以下に抑えるという画期的な技術です。
参加者からは、「BILMUS」採用の超高層ビルの揺れは、地震体験キャビン内の手すりをつかんでいなくても、立っていられたかもしれないという声すら聞かれるほどでした。まさに驚くべき成果です。
関東大震災からちょうど100年となる2023年9月1日を前に、関東大震災相当の揺れと、それほどの大きな揺れをものともしない最新の制振システムを実体験できたことで、この100年の技術の発展にあらためて感じ入りました。地震を避けることはできないかもしれません。ですが、その揺れを抑えることで被害を低減する知恵や技術は着実に芽吹き、育っていることが実感できる有意義なセミナーでした。
文・野崎 優彦
さまざまな企業のコミュニケーション活動をお手伝いしているコピーライター。株式会社モーク・ツー所属