2020.03.09

ConTECH.café

文系コピーライターの周回遅れのAIのお勉強 その2

Society5.0とやらがはじまりつつあるらしい!?

第五期科学技術基本計画で検索すると内閣府のそれが一番に出てくる。そこから本文をプリントアウトしたものを見ながら、いまこの原稿を書いている。平成28年1月22日閣議決定と表紙に記されたこのペーパーは全7章で本文52ページに及ぶ。

お役所の文書を読みなれていないので、頭がくらくらした。ついでに書くと、役所は「文書で動く組織」であることをつくづく痛感した。本文以外にその概要があり、パワーポイント版があり、かつ類似の説明資料がある。そのうえ、文部科学省、経済産業省などの関係各所バージョンもある。全部プリントアウトしたらきっととんでもない枚数になる。

たぶん第2章がこの計画の目玉なのだろう。未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創出の取組として、世界に先駆けた「超スマート社会」を実現(Society5.0)していくと高らかに宣言している。公文書にしては珍しく高揚感が感じられる。

ドイツのインダストリー4.0、アメリカの先進製造パートナーシップ、そして中国の中国製造2025を列記したうえでSociety5.0と謳っている。どーだ!感が伝わってくる。けれども、わたしは、今回初めてこのワードを知った。皆さんは、とっくにご存じ?

Society5.0は、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続くような新たな社会を生み出す変革を科学技術イノベーションが先導していくという意味を込めて名付けられたようだが、人類の歩みは、こんなに単純に図式化できるほど直線的で進歩主義的に変化してきたとはとうてい思えないのが正直なところだ。あくまでも私見だが…。

本気でそう思ってる?

超スマート社会は、ICTを最大限に活用し、サイバー空間とフィジカル空間(現実世界)とを融合させることで人々に豊かさをもたらす。必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といったさまざまな違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会と定義されている。

Society5.0で検索してみてほしい。内閣府のそれが真っ先に出てくる。

いままで読んできたペーパーが、ビジュアル中心にわかりやすくコンパクトに「見える化」され、かつ計画本文よりもさらに「楽観的」な見通しが饒舌に語られる(という印象を受ける)。

ちょっと長くなるが、引用する。

Society5.0で実現する社会は、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合える社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。

えっ、ここまで言っちゃっていいの!?なんか一昔前の素朴なユートピア論を読まされた感じだ。

これまで時代を代表する多くの叡智が延々と思索し議論しつづけても、いまだに「これだ!」に至ってない社会問題が、AIやIoTがもうすこし進化さえすれば、それもあと数年もしたら、魔法のようにスッキリ!と解決できると言い切れる、そのノー天気さが不思議だ。

わたしなんかよりもずっとずっと広範で深いAIの知見を有している人が、AIをあたかも「人間の能力をはるかに超えた機械」としてこんなに無邪気に語ってしまえるのはなぜなんだろう。

正しく楽観的でありたい

政府広報オンラインのSociety5.0のページでは、5分3秒のWEB限定ムービーが見られる。中山間部の地方都市に暮らす女子高生の20XX年のある日の朝。ドローン配達、AI家電、AIスピーカー、遠隔診療(これは祖母が受けている)、無人トラクター(これは、走ってバス停に向かう途中の田んぼで稼働している)、会計クラウド、そして無人走行バスが登場して、いかに暮らしに「当たり前になっている」かを見せてくれる。正直、こころはまったく動かなかった。

「トキメキ」がなくなるのが歳を取ることらしいが、なーんもプラスの感情は生じなかった。なによりも、この女子高生の両親はどうしたんだろう、朝ごはんも用意してくれないのだろうか。とあまりにも人の気配の少ない映像に、余計な想像をしてしまった次第である。

「未来が楽しみでしょ?」

憧れの先輩とバスの中で並んで座る彼女は、カメラに向かって、つまり、わたしに向かってほほえみながら、こう問いかける。うーん。わたしには、返す言葉が…ない。

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト