2019.12.02

ConTECH.café

F M X

流行の金融商品、では、ない!

パスポートを見ていただきたい。その性別/Sex欄。わたしはMと印字されている。もちろん妻のはFである。わたしもふくめて「当然だろ、この世界は男と女しかいないのだから」と思っているようでは、古い性規範に生きていることになる。

オーストラリアのパスポートには2011年から、X(中間あるいは不確定の意味)がある。LGBTをちゃんと認め、その反映として、パスポートにも明示しているのだ。それにより、入国審査で、性別の表記と外見が異なることで不快な目に遭った人たちが減った。

残念ながら、日本は、政治家の無自覚、かつ勉強不足による性差別発言の頻発(そう思っていないから、反省がなく、当然学びも気づきもなく繰り返される)を見るまでもなく、性の多様化にまだまだ不寛容だ。ダイバーシティ、ダイバーシティと叫びながら、その実、逆にさらに画一化しているとさえ思えてしまう。その時代時代の流行語と同列の単にカッコよく耳に響く「お題目」の域をまだまだ出ていないのが実態なのだろう。

事実、世界経済フォーラムが昨年末に発表した、男女平等の度合いを示す「ジェンダー・ギャップ指数」は、ななななんと149か国中110位。女性の政治参加になると、もっと悪く125位。もう「女性活躍」のキャッチフレーズは安易に使わない方がいい。

まずは名古屋大学のガイドラインを読んでみよう

ジェンダーやLGBTの取り組みで先行しているのが、大学である。名古屋大学の取り組みに目が留まった。2017年、その研究と情報発信の充実を図るべく図書館と研究スペースからなる「ジェンダー・リサーチ・ライブラリ」を開設。一般も利用でき、特にトイレが、この施設の理念が反映されていると注目されている。

オールジェンダートイレ。使用者が通常のように男女の性別で限定されておらず、どのジェンダーであっても使える、いわゆる「だれでもトイレ」である。

入口の壁面には性の多様性を表現したヒト型のレリーフが並び、個室のドアにもオールジェンダー&多目的トイレの表示とともに、見慣れた男女のピクトグラムのほかにひげを生やしたスカート姿の人、ロングヘアのズボン姿の人など30近いピクトグラムがずらりと並んでいる。

特別扱いしているとか、単に「性別不問」と書けばいいじゃんといった意見もネットを中心にある。しかし、先述のような日本のジェンダー意識のトホホな程度を考えると、やはり、こうしたキャッチ―な啓発や、あえてのアピールが必要なのだと思う。

名古屋大学では、学生及び教職員に向けて「LGBT等に関する名古屋大学の基本理念と対応ガイドライン(平成30年5月)」を発表しており、これは、われわれでもネットで閲覧でき、ダウンロードもできる。表紙を入れて10ページの冊子だが、学籍簿や成績証明書等での性別情報の扱いなど現状を垣間見ることだけでもジェンダーの基本的知識が簡潔にわかるようになっている。ぜひ!

渋谷のドン・キホーテで初体験

ジェンダーやLGBTについて「知識として知っている」ことと、実際に「理解し心からの共感を行動にする」こととの間には、けっこうな隔たりがある。そのギャップを埋めるのは、それなりの時間も思考も努力も要する。何よりも、自らの意識改革が難行苦行だ。

2017年にオープンしたドン・キホーテ渋谷店。その2階にあるトイレ。入口の大きな衝立には、3つの矢印とピクトグラムが描かれている。左の←にはズボン姿の男性のピクトグラムにMEN、右の→にはスカート姿の女性のピクトグラムにWOMEN、そして真ん中には↑にズボン姿の男性・ズボンとスカートを合体した姿の人・スカート姿の女性の3体のピクトグラムにALL GENDERの英文字が(英文表記だけなのは、インバウンドが多い渋谷だからなのだろうか)。

ちょっと様子を観察すると、案の定、右か左への流れで、真ん中に入る人はいなかった。入ってみた。清潔で、広々。通常の男性用個室に比べ、ゆっくりと気持ちよく用が足せた。

この情報を知ったのは、検索でたまたま共同通信の「LGBT用トイレ 先進地・渋谷の旗艦店に」という記事がヒットしたからだ。しかし、このタイトルがどうも、いただけない。ドン・キホーテは、オールジェンダーと表記しているのに。

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト