再開発が進む東京・原宿の神宮前六丁目エリア。そこに新たなランドマークとして建設された東急プラザ原宿「ハラカド」は、全面がガラスに覆われ、しかも金属のフレームが外からは見えない、まるでガラスのオブジェのような建物です。この印象的な外観を可能にしたSSG構法についてご紹介します。

時代を創ったかつての原宿の熱気を、令和に
東京・原宿、明治通りと表参道が交わる神宮前交差点。古くは1960年代、この地には原宿セントラルアパートがあり、多くのクリエーターが集って先鋭的なカルチャーを発信していました。現在も、日本最先端のファッショナブルな人が行き交う交差点のひとつです。その西角に建てられたのが東急プラザ原宿「ハラカド」。新たな文化創造拠点となる商業施設として2024年春にオープン予定です。
原宿の新たなランドマークにふさわしい個性的な外観の東急プラザ原宿「ハラカド」
設計・監理:株式会社日建設計 外装・屋上デザイン:株式会社平⽥晃久建築設計事務所
全面を覆うガラスファサードは、 三角形や四角形のガラスを組み合わせた多面体で構成される凹凸面とフラット面が混在しています。凹凸面には行き交う人々、街並みや空、ケヤキ並木などがガラス面に映り込みます。一方、フラット面からは建物内部の賑わいとそれを楽しむ人々が透けて見えます。

さらに夜になれば照明の光で建物全体が浮かび上がって見えるようになっているのです。
難易度の高いガラスファサードに豊富な実績

全面ガラス張りの外観が印象的な東急プラザ原宿「ハラカド」は、外部にファサードの金属フレームが露出していないため、本当にガラスのオブジェのように見えます。これを可能にしているのがSSG構法。SSGとは「Structural Sealant Glazing」の略で、専用のシーリング材(構造シーラント)でガラス辺と外装サッシを接着する構法です。
東急プラザ原宿「ハラカド」の場合は、ガラスの全辺をSSGによって支持するため、2辺にSSGを採用する通常のSSG構法以上に構造シーラントの強度や耐久性が求められることになりました。四角形と三角形のガラスが混在した立体的な構造のため、施工の難易度も格段に高くなります。さらに、使用する熱線反射倍強度ガラスは現場加工による微調整ができない部材であり、より厳密な製造精度・施工精度が要求されました。
東急プラザ原宿「ハラカド」のガラスファサード施工の特徴
- 4辺SSGによるガラス支持構法
- 多様なガラス形状と凸凹パターンによる複雑なファサード意匠
- 熱線反射 倍強度ガラスの使用
清水建設では2016年竣工の江戸切子をイメージした外装が印象的な東急プラザ銀座からSSG構法に本格的に取り組み、東京国際展示場(南展示棟)やメブクス豊洲、虎ノ門ヒルズなど、5年間で1万m2を超える施工実績で技術を磨き上げてきました。特に2023年7月に竣工した麻布台ヒルズA街区(麻布台ヒルズ森JPタワー)・C街区(ガーデンプラザ)では、5000m2を超えるガラスファサードの施工にSSG構法を提案。これが採用されたことで、品質とコストを高いレベルで両立しています。
これからもSSG構法の技術開発・改善を進めることで、より難易度の高いガラスファサード建築にもチャレンジしていきます。
設計担当者様よりひとこと
時代を代表する建築を実現
「KNIT DESIGN(まちを編む)」。これが外装デザインを担当された建築家の平田晃久さんのコンセプトです。彫刻的なガラスのオブジェをつくることが目的ではなく、まちの風景や賑わい、さらに天気や季節といった移り変わる時間そのものを編むような「現象」としてのファサードとなることが目指されました。多くの課題に取り組み、ついに神宮前6丁目に現れた美しい「まち」の様相を目の当たりにし、本プロジェクトにおける関係者全員のチャレンジと技術力によって、時代を代表する建築が実現できたと確信しました。
施工担当者よりひとこと
前例のない特殊なガラスカーテンウォール実現への挑戦
ガラスとアルミフレームを構造シーラントで接着し、外からアルミフレームが見えない構法は、海外には施工事例があるものの国内ではほとんど使用されていませんでした。今回はガラスユニットの形状も大きさもバラバラで、さらに平面的にも立面的にも凹凸があるため、安全性の検証には特に時間がかかりました。実験を繰り返した結果、滞りなく取り付けが進んでいき、ついに足場が解体されファサードが姿を見せた瞬間、これまでにないほどの達成感が得られました。

技術支援担当者よりひとこと
データに裏付けられた信頼性の実証
複雑な形状のガラスを保持する構造シーラントの変形が地震や台風時でも常に許容値内に収まるよう実証することが今回のプロジェクトの命題でした。最新のモーションキャプチャシステムを用いて実物大試験体の挙動を0.1mm以下の単位でリアルタイムに測定することにより、変形が許容値内に収まっていることを確認できました。10年前では成立しなかったであろう外装が最新の技術で実現できたことに技術者として深い感慨を覚えます。
実物大試験体の挙動を測定するモーションキャプチャシステム設置状況
コロナ禍という未経験の状態での品質管理とこだわり
ファサードの仕様が固まり、詳細設計と海外の製造工場とのやり取りを始める段階でコロナ禍に。そこで、試作段階からすべてオンライン検査と現地協力業者の立会検査を併用して、試作品をすべて日本へ輸送してもらい、都度解体検査を実施して品質向上に努めました。ガラスの性質上オンライン検査では確認しきれない部分や試験体を見て初めて分かる不具合もありました。それらを根気よく改善し、最終的に意匠的・品質的にも非常に満足のいくファサードが実現できたと感じています。
海外製シーリング品質管理検査(オンライン) 日本での製品解体検査
新世代SSG構法の代表例になると確信
2016年竣工の東急プラザ銀座以降、SSG構法に本格的に取り組み始め、これまでに多くのノウハウを蓄積してきました。今回のガラスファサードは、そうしたノウハウを活かしながら、新しい困難な課題に対して設計、現場、技術スタッフなど関係者全員が一つのチームとなって果敢に挑戦した結果、実現できたと感じています。SSG構法の特徴であるシームレスな外観を最大限に活かした複雑形状ガラスファサードは、新世代SSG構法の代表例になると確信しています。

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…ところでこの形、松尾さんも参加したSFプロトタイピング
ワークショップから生まれた「あれ」に似てませんか?
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似ていますね。大変興味深いです。
東急プラザ原宿「ハラカド」のガラスファサードがいかにオリジナリティに溢れるデザインであるかを示していると思いますし、
SFプロトタイピングの可能性を感じました。