2022.12.05

事例

健康・快適

軽井沢安東美術館

アンモニア低減対策で早期開業を果たした美術館

2022年10月、藤田嗣治(レオナール・フジタ)の作品のみを展示・収蔵する軽井沢安東美術館がオープンしました。ここでは建設工事の段階からコンクリートから放出されるアンモニア対策を包括的に実施し、竣工から約4ヶ月という短期間での開業を実現しました。

2022年10月、長野県にオープンした軽井沢安東美術館
2022年10月、長野県にオープンした軽井沢安東美術館

世界初、藤田嗣治の作品だけを展示する個人美術館

軽井沢安東美術館は 1920年代に活躍したエコールド・パリを代表する画家の一人である藤田嗣治(レオナール・フジタ)の作品だけを常設展示する世界でも前例のない個人美術館。藤田作品に魅了された安東泰志氏・恵氏夫妻が約15年をかけて蒐集した約180点ものコレクションを展示・収蔵するため、夫妻が藤田作品と出会った思い出の地である軽井沢に開設したプライベートミュージアムです。

軽井沢安東美術館の内観

「安東夫妻の自宅」というコンセプトで設計された建物は、夫妻の私邸の要素が取り入れられ、展示室の壁の色は部屋ごとに異なり、さらに作品が制作された年代やテーマに合わせて天井の形状や照明の手法も変えるなど、作品とじっくり向き合える空間として仕立てられています。

クリーンルーム建設技術を応用・発展させたアンモニア対策

清水建設のアンモニア対策技術は、クリーンルーム建設のために開発された空気清浄化技術を応用・発展させたもの。さまざまな要素技術を組み合わせ、施工内容や時期、現場の状況に応じて実施します。美術館・博物館は竣工からオープンまでふた夏(約2年)の“枯らし期間”を設けることが通例とされていますが、包括的なアンモニア対策の実施によりこの期間の大幅な短縮を実現しました。

軽井沢安東美術館の場合、2021年7月から11月にかけてコンクリート打設工事を行い、並行してアンモニア対策を行った結果、2022年7月の竣工時には収蔵庫のアンモニア濃度を(独)国立文化財機構 東京文化財研究所が示す指針値である30ppb以下に抑制しました。

さまざまな対策を組み合わせて実施することで“枯らし期間”を短縮する
さまざまな対策を組み合わせて実施することで“枯らし期間”を短縮する

発生させない:アンモニアの少ない材料を選定

コンクリートの材料であるセメントや骨材、減水剤・混和剤をそれぞれ測定分析し、アンモニア発生量が少ない材料と配合設計との総合的な判断により、打設後のアンモニア放散が最小となるコンクリートを選定しました。特に減水剤は製品によってアンモニア発生量が10,000倍も異なることがあり、事前の選定が極めて重要です。

試験体をデシケータにセット後、清浄空気を流通させ、発生したアウトガス(放出されるガス)を純水中に捕集し分析する
試験体をデシケータにセット後、清浄空気を流通させ、発生したアウトガス(放出されるガス)を純水中に捕集し分析する
分析した結果、発生量の少ない材料を選定する
分析した結果、発生量の少ない材料を選定する

濃度管理:精密測定、検知管

工事中、定期的に現場の空気を採取して精密測定を実施し、アンモニア濃度を把握。また、精密測定間のブランク期間におけるアンモニア濃度を把握するために、高頻度に実施できる検知管を用いた簡易測定も併用。より正確にアンモニア発生量を把握することで的確なアンモニア除去対策を実施しました。

除去する:ケミカルフィルタ、散水養生・乾燥、加温

アンモニアは温度が高いと放散量が増えることから、冬季の工事期間にも仮設ヒーターで室内温度を上げる対策を実施。放散量が多いと判明したタイミングで、アンモニアを吸着するケミカルフィルタの稼働、また、打設直後はコンクリートに水を撒いてアンモニアを吸収させる散水養生、コンクリート工事の後半にはウレタンを吹き付ける封じ込めなどの対策を講じました。

温度が上がると放散されるアンモニア発生量は増加する 佐野ほか:保存科学, No.30, pp.31-43 (1991).
温度が上がると放散されるアンモニア発生量は増加する
佐野ほか:保存科学, No.30, pp.31-43 (1991).
活性炭が仕込まれたフィルタユニットによりアンモニアを除去するケミカルフィルタはクリーンルーム建設のために開発された要素技術のひとつ
活性炭が仕込まれたフィルタユニットによりアンモニアを除去するケミカルフィルタは
クリーンルーム建設のために開発された要素技術のひとつ

本文:野崎 優彦
(さまざまな企業のコミュニケーション活動をお手伝いしているコピーライター。株式会社モーク・ツー所属。)

軽井沢安東美術館・館長様よりひとこと

良いコンディションの中で開館準備ができました

軽井沢安東美術館 館長 水野 昌美様

2022年10月8日、軽井沢安東美術館がオープンしました。当館の特徴は、まず藤田嗣治だけを展示する美術館であるということ。そしてもう一つは、当館の創立者である安東泰志ご夫妻の自邸をコンセプトに計画された空間であるということです。ご夫妻が藤田の作品を飾っていた自邸と同様、中庭を囲むような回廊式になっており、英国から取り寄せたハンドメイドの煉瓦で外壁を覆った瀟洒なデザインは、一見すると美術館とは思えない佇まいです。

2022年10月8日、軽井沢安東美術館がオープンしました。当館の特徴は、まず藤田嗣治だけを展示する美術館であるということ。そしてもう一つは、当館の創立者である安東泰志ご夫妻の自邸をコンセプトに計画された空間であるということです。ご夫妻が藤田の作品を飾っていた自邸と同様、中庭を囲むような回廊式になっており、英国から取り寄せたハンドメイドの煉瓦で外壁を覆った瀟洒なデザインは、一見すると美術館とは思えない佇まいです。

2022年7月の竣工を待って、約180点すべての作品を都内の自邸から軽井沢へと移送しました。その後の展示や開館準備作業は、清水建設さんが建設初期段階から定期的に現場の空気を採取して精密測定を実施、計画的にアンモニア濃度を管理、除去対策を実施いただいたおかげで、予想をはるかに上回る良いコンディションのなか、安心して作業を行うことができました。

開館からもうすぐ2ヶ月。おかげさまで、全国からたくさんのお客様にご来館いただいております。新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けながらも、こうして無事に美術館が開館できましたことは、清水建設さんをはじめ多くの皆様のご尽力の賜です。美術館スタッフ一同、あらためて、心からお礼を申し上げます。

軽井沢安東美術館 館長 水野 昌美 様

施工担当者よりひとこと

施工計画の工夫により空気質の課題を解決

軽井沢安東美術館 館長 水野 昌美様

「近年、美術作品への影響が大きいとされる空気環境を、何とか特殊な材料を使わずに施工計画の工夫によってよりよくできないか」というテーマに取り組み、大きな成果を上げることができました。このようなチャレンジの機会を与えていただいた美術館の皆様に感謝いたします。

当社の技術研究所のメンバーと協同することで、「美術館や博物館では二夏越してから収蔵品を収納する」という業界の常識を超えるべく、綿密な施工計画を立てつつ、過去の実験データや建設地の特性なども加味しながら検討を進めました。

特殊な材料や大掛かりな機器を使用しない分、コンクリートをはじめとする使用材料の選定や、測定方法、工程管理、施工手順、日常管理…と様々な面に繊細な配慮が求められる中、着工時から注意を払って現場管理に努めてきました。目に見えない空気質を、「竣工までに国宝クラスの美術品が収蔵できるレベル」まで到達させたことは、目的意識を持ちながら日々この挑戦を理解し取り組んだ作業所スタッフの成果だと感じております。

東京支店 工事長 杉山 和弥