当社は、医薬品製造施設の設計支援ツールとして、医薬品GMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範)※に準拠したクリーンルームの配置計画を効率的に立案できる3Dモデリングツール「GMP Visualizer」を開発しました。
本ツールは医薬品製造施設の建築・空間計画のベースとなるクリーンルームの配置計画を検討する際に不可欠な医薬品GMPとの適合チェックを、コンピュータプログラムで自動化するものです。計画図の作成および修正についてもビジュアル画面上で簡易に行えるため、GMPに即した配置計画を短時間で作成することができます
当社は今後、医薬品製造施設の新築計画の設計検討に利用するとともに、既存施設のGMP適合チェックツールとしても活用し、改修提案の最適化につなげていきます。
医薬品GMP:人の健康・生命にかかわる医薬品の安全性と品質を確保するため製造施設が厳守すべき要件をソフト・ハード両面で定めた製造管理・品質管理基準

インデックス
開発の目的
医薬品GMPでは、品質の良い優れた医薬品を定常的に製造するために、ハード・ソフトの両面で管理基準が定められています。
ハード面では、製造区域ごとに作業内容に応じた空気清浄度のグレードが定められており、その対象の一つであるクリーンルームにも厳しい基準が課せられています。もともとクリーンルームは、室内の空調気流の向きや速さ、室圧、温湿度、静電気などを制御する機能を備えていますが、人やモノの動きによって室内へ運ばれてくる微粒子や細菌は一般的な空気調和設備のエアフィルタでは完全に除去できません。そのため、室間で人やモノの出入りが生じる場合には、清浄環境を保つために室配置計画の段階から施設全体の人やモノの動きを把握し、室同士の関係を考えた上で、クリーンルームの配置場所を設定する必要があります。
しかし、医薬品GMPで定められた複合的な基準を満たし、施設の生産効率や動線の合理化を両立させた室配置計画を作成するためには、経験豊富な熟練の設計者であっても相応の検討時間を必要とし、比較検討に必要な複数の適切なパターンを作成することは限られた時間の中では非常に困難な状況でした。
こうした熟練設計者のノウハウを若手設計者へと継承し、GMP要件とニーズに応じた室配置計画をスピーディにお客様へ提案するため、これまで培ってきた医薬品製造施設の設計ノウハウをコンピュータプログラム化し、GMP要件の自動チェック機能を備えた3DモデリングツールとしてGMP Visualizerを開発しました。
GMP Visualizerの構成と使用方法
GMP Visualizerは、高度なコンピュテーショナルデザイン手法を取り入れたプラットフォーム「Shimz DDE(Digital Design Enhancement platform)」をベースとし、整理されたGMP要件と室同士をつなげる際の諸条件をプログラム化したGMP自動化プログラムによって構成されています。
室の面積や最高室圧などの数値データを入力することによって、複雑なGMP要件を満たした計画図が短時間で作成できます。諸条件の適合性を都度簡単にチェックできるため、適合性を保ったまま計画図へ変更を反映させることが可能です。
Shimz DDE
3Dモデリングソフトウェア「Rhinoceros」とそのプラグインツールである「Grasshopper」をプラットフォームとし、数十種類の独立したツールを1つに統合・集約した設計ツールです。本ツールにより、設計初期段階において意匠、構造、設計の分野を横断したシミュレーションが可能となり、きめ細かい検討とともに最適なパターンを複数導き出すことができます。
設計時のチェックツールとして
はじめに、設計者が設計に必要な諸室の面積や清浄度グレード、室圧などの設計条件をまとめた一覧表を作成し、ツールに読み込ませることで、面積などの属性情報とともに各室に対応するブロック図形がツール画面に生成されます。次に、その室と動線のつながりのある室のブロックを線で結び、製造する工程に則った人やモノの流れを設定すると、室間に配置すべき前室、更衣室等の緩衝室が画面上に自動的にプロットされます。作成されたブロックプランに対し、GMP自動化プログラムが各室の清浄度グレードや室圧、室間の気圧差の妥当性を自動チェックし、GMP要件に適合しない場合にはエラーメッセージが表示されます。
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設計者は、GMP自動化プログラムの判定結果に応じ、各室の清浄度グレードや室圧条件を適宜修正することで、GMPに即した室配置計画を作成でき、完成したプランから簡易的な空調系統図や室別条件表も出力することが可能です。さらに、GMPを満たした室圧の最適化も可能です。建築面積・各種動線の長さ・更衣室数・最高室圧等を中心に具体的な数値とビジュアル面によって施設全体を評価・比較し、意見や変更点の反映が容易になったことから、客先との早期の合意形成にもつながります。
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改修時の評価ツールとして
また、新築計画だけでなく、既存施設に対しても医薬品GMPの適合性について判断し、不適合箇所を簡易に抽出できるため、評価ツールとして使用することもできます。
既存施設を現行の医薬品GMPに照らし合わせて確認した際、不適合となっている箇所はどこか、それ以外の室の配置場所や室圧についてもどのような変更を行えば適合するか、といった既存施設全体の評価を非常に簡単かつスピーディに行うことが可能です。

今後の展望
今後は、医薬品製造施設と同様に明確な室配置要件を満たす必要がある半導体などの工業製品製造施設や厳格に感染症対策を行うための医療施設にも展開が見込めます。また、コンピュテーショナル・デザインの強みを活かし、社内での設計ノウハウの共有、エビデンスに基づいた客先への提案力を高め、新築だけでなく既存施設に対する改修案にも力を入れていこうと考えています。