人間の肉眼と脳に似たような機能を持つ「インテリジェントカメラ」への需要が高まっていることをご存じでしょうか。かつては単なる静止画や動画を情報として記録するだけだったカメラは、あたかも人間の様に分析と判断を行い、「監視から観察」へとその役割を進化させているのです。
記録・分析・伝達をこなすインテリジェントカメラ
インテリジェントカメラは、映像を「記録」し、その情報をもとに「分析」を行い、さまざまなアウトプットを実現するための「伝達」を行うデバイスです。従来のカメラに比べると高性能で、自律的な動作を行うことが特徴といえるでしょう。
インテリジェントカメラの基本的な仕組みを整理すると、以下の3つに集約できます。
- 情報をとらえる(記録)
- とらえた情報をリアルタイムで解析、数値化(分析)
- 解析した情報を他のデバイスに伝える(伝達)
例えば、街頭にインテリジェントカメラを設置し、常時撮影を行うとしましょう。撮影された動画から人間の顔を抽出し、どのくらいの人数が往来しているかを分析、数値化します。数値化された情報は公衆無線LANやモバイル回線などを通じて、遠隔地に設置されたデバイス(サーバーやPCなど)に送信されます。このようにカメラ単体で記録・分析・伝達をワンストップで行えることがインテリジェントカメラの強みです。
インテリジェントカメラは「レンズ」ではない
近年のインテリジェントカメラは、SoC(System on a Chip=CPUやメモリ、制御回路など、システム稼働に必要なパーツを一つの半導体チップにまとめたもの)や、M2M(機械同士の自動的な接続、連携)を行うパーツを搭載しており、それ自体が超小型の自律的なシステムです。
例えば、列車の衝突事故を防ぐため、運転支援システムの一環としてインテリジェントカメラ「eXcite」が使用されています。信号標識を自動認識し、ヒューマンエラーによる事故を防ぐことが目的です。レンズから取り込んだ情報を高速かつ正確に分析・認識することがeXciteの役目なのです。
また、建設業界でも、ホイルローダに「ヒトを検知するシステム」を搭載したインテリジェントカメラを配置し、工事の安全性を高めている例があります。暗所、粉塵、雨などで視界が悪化した環境でもヒトとその他の障害物を判別し、オペレーターに警告するのです。山岳トンネル工事など視界の悪い狭い空間での作業において、作業機械や作業員同士の接触を防ぐ目的で導入されました。この仕組みをつかえば、現場内での危険行動を事前に察知し、事故やトラブルを未然に防ぐことができます。
このようにインテリジェントカメラは、単に物事を写す「レンズ」ではなく、もはや「分析・伝達機能を担うデバイス」といったほうが適切かもしれません。
犯罪防止に決済…社会に溶け込むインテリジェントカメラ
こういったインテリジェントカメラの優れた分析・認識機能は、AIを用いた深層学習とも親和性が高く、新たな社会インフラとして期待されています。
例えば中国では、20億人の顔を数秒で識別できる超高精度AI「ドラゴンフライアイ」を搭載したカメラが稼働中です。18億人の顔データベースに連結して画像情報を分析し、逃亡犯や前科者、テロリストを瞬時に識別できる仕組みで、既に中国の一部地域では稼働が始まっているといわれています。また、中国警察の装備に、インテリジェントカメラ搭載型のサングラス「顔認証グラス」が登場したことも話題となりました。この顔認証グラスを使用すれば、対象者の氏名や性別、人種や住所といった個人情報を即座に確認し、逃亡犯や身分証の偽造を行っている者をリアルタイムに識別できるのです。
このように、顔認証AIを搭載したインテリジェントカメラは、主に犯罪防止や社会不安の軽減に役立てられています。しかし、また別の分野では生活の利便性を向上させる役目も担っているのです。その好例が「顔認証決済」です。
実際に国際カードブランド大手の「VISA」では、決済時の本人確認手段として、店頭やイベント会場に設置したインテリジェントカメラを利用する仕組みを開発しています。あらかじめ保管しておいたカード情報と持ち主の顔画像を紐づけ、カードレス決済の利便性を向上させるとのこと。大手カードブランドが一般消費者向けの本格的な顔認証決済を導入するため、将来的にインテリジェントカメラによる顔認証決済が一般的になる可能性が高まりました。もちろん、紛失や盗難による不正利用を防止する目的も含んでいます。
いかに安全で住みよい環境を創り上げるか。人間が長年取り組んできた課題に対し、インテリジェントカメラは毒にも薬にもなる技術といえます。進化し続けるSoCを搭載し、AIとの融合で高度な「判断」をも可能にしたインテリジェントカメラの進化に注目したいところです。
- 佐京 正則
- IT業界にてエンジニアやERPコンサルタントとして勤務後、独立。主にITトレンドやビジネス、不動産投資などの記事を得意としている。