音声認識AIという新たなキーワードを生み出し、今後急拡大が予想されているのがスマートスピーカー市場です。2022年には世界で5000億円規模まで拡大すると言われており、今注目の技術の一つです。
スマートスピーカーとはどんな存在で、ビジネスシーンにどう作用していくのでしょうか。今回はその展望を紹介します。
音声認識AIが生み出すスマートスピーカーの最先端
2017年はスマートスピーカー元年と呼ばれ、日本でも知名度が高まりつつあります。 構成部品としてはスピーカー、マイクに加えて、無線通信機能とクラウドに用意された音声認識AIという4つの要素で構成されています。複数のマイクを協調させることで、雑音に紛れがちな音声を正確に拾い上げ、クラウドの音声認識AIが解析するというのが一般的な動作です。スピーカーと呼ばれながらも、実はマイクの存在が肝という興味深い製品でもあるわけです。
スマートスピーカーはユーザーの声を聞き取り、その内容に従って情報を提供したり、家電などの設備を動かすことで、ユーザーの生活が豊かになるようにサポートしたりします。例えば音楽を再生する場合でも、ユーザーが指定した曲はもちろん、その日の気分にあった曲を自動選択して、再生することも可能です。
そのほかにも、照明や生活家電などのコントロール、インターネット検索など、すでに生活のアシスタントとして、様々なメリットを提供しています。ちなみに、AIアシスタントとしては、Amazon(alexa)、Google(google assistance)、Apple(siri)、Microsoft(cortana)など米情報大手企業がこの市場を席捲しています。一方、AIアシスタントを利用したデバイスでは、ONKYO、Ankerなどの異業種メーカーの新規参入が見られ、業界の垣根を超えた市場となっています。こういった市場の拡大により、スマートスピーカーがより手軽で身近な存在へと変わっていくことでしょう。
スマートスピーカーで生活インフラを制御
スマートスピーカーが今最も期待されている分野はスマートホーム構想の中にあります。スマートホームとは、家電製品をネットワークで一括管理し、快適なライフスタイルを実現する住まいのことです。家電製品に代表される設備の管理・統制だけではなく、そこで使われるエネルギーにも着目して施設全体の消費電力などを調整・制御するBEMS※1やHEMS※2も必要技術の一つになります。
これまでの室内環境調整は、リモコンで温度や湿度、運転モードを設定する必要がありました。曰く、「26℃」「55%」「冷房運転」といった制御指示で、ユーザーの感覚を代替していたとも言えます。このスマートホーム構想においては、人間の命令を最初に受け取り、各家電製品へと伝える司令塔がスマートスピーカーと考えられています。スマートスピーカーを使えば「もう少し暖かく」や、「足元が寒い」といった、利用者の感覚を直接言葉に置き換えた要求にも対応できます。
HEMS(Home Energy Management System) 家庭エネルギーの一元管理システム
BEMS(Building Energy Management System) ビルエネルギーの一元管理システム
ちなみに、スマートスピーカーと連携するエアコンのように、手を触れず、視線も移動せずに操作できる家電は、ノールックAI家電と呼ばれています。話しかけることでおすすめのメニューを提案してくれる電子レンジといった商品もあり、ノールックAI家電が普及すれば、日常生活の様々なシーンが便利・快適になりそうです。
このように著しい発展を遂げているスマートスピーカーですが、最近ではオフィスにもその領域を拡大しています。
例えば法人向けAIアシスタントとして、Amazonの「Alexa for Business」が発表されており、会議のマネジメントやスケジュール管理として活躍が期待されています。さらに、IoTやロボティクスとの融合によって、製造・建築を大きく変える可能性を持っています。
スマートスピーカー+IoT・ロボティクスの新たなブレイクスルー
例えばIoTでは、インダストリー4.0の目玉といわれるスマート工場との親和性が高いと考えられます。スマート工場とは、カスタマイズ性や、リアルタイム性、圧倒的な低コスト化を目指した次世代型の工場です。日本国内でも大手企業を中心に、タブレットやスマートフォンによる遠隔制御、スマートグラスによる視覚情報の共有といったスマート工場ソリューションが活用され始めています。ここにスマートスピーカーによる音声制御が加われば、より直感的で繊細な指示が与えられるようになります。
また、スマートスピーカーは、プログラミングされた動作を暴力的に行う「機械」から人との協調作業を行う「仲間」に進化しつつあるロボットとの相性も期待されています。つまり、マン・マシン・インターフェースとしてAIアシスタントを使うことが、仲間に対する指示をいかに直感的に素早く行うかという、これからのロボットとの関係における課題解決につながると考えられています。
例えば、建築業界では、建築施工作業を支援するロボットの開発が急速に進んでいます。このようなロボットにAIアシスタントが融合すれば、作業員との協調作業がスムーズに行えるようになり、「仲間」としてのロボットの活用方法がより広がることでしょう。「ちょっとあれ取って」「ここ押さえておいて」「じゃあ、この作業を任せたよ。何か問題があったら、連絡して」といった形で、ある時は人の作業をサポートし、またある時は自律的に作業を行う。AIアシスタントが可能にする直感的な指示は、ロボットの制御を容易にし、かつ、協調性を高める効果があります。人とロボットがともに働く未来には、AIアシスタントが欠かせません。多くのロボットが音声指示を受けつつ、自律的に動きまわる建設現場の実現は、そんなに遠い未来ではなさそうです。
このようにIoTやロボティクス、スマートスピーカーの進化は、私たちの職場や、生活環境に劇的なパラダイムシフトをもたらします。デート中のスターバックスの店内で「カプチーノ二つ」とつぶやくだけで、ロボットウェイターが持ってきて支払いも完了している。そんな「ライフスタイル」が実現する日は近づいています。
- 佐京 正則
- IT業界にてエンジニアやERPコンサルタントとして勤務後、独立。主にITトレンドやビジネス、不動産投資などの記事を得意としている。