「仮想空間上の双子」を意味する「デジタルツイン」という考え方をご存じでしょうか。デジタルツインは今、様々な業界から注目されています。今回はデジタルツインの仕組みや活用事例に言及しながら、建設現場へ適用できる可能性を探ります。
仮想空間に精密な"双子"を再現するデジタルツイン
デジタルツインとは、簡単にいえば、現実世界の物理的な出来事をそっくりそのまま仮想空間上に再現しようという考え方です。世界最大の複合企業GE(ゼネラル・エレクトリック)社が、航空機エンジンの保守費用削減に活用していることでも知られています。
デジタルツインは、製造業で行うCAE(Computer Aided Engineering)と呼ばれる手法を進化させたものです。製造業では設計開発段階にある製品をバーチャル環境上に再現し、様々なテストを実施します。耐熱性や耐衝撃性に関するテスト、自社製品以外の部品を巻き込んだ動作テストなど、テスト環境の構築が困難なケースが膨大にあるからです。
デジタルツインはこのCAEを一歩進化させ、現実世界で想定される様々な環境要因を組み込み、仮想空間上に再現した"双子"が常に変化・更新されていくという特徴を持っています。そのため、現実世界の製品と限りなく似通った状態を再現でき、高度なシミュレーションを行うことが可能です。
異分野へ進出するデジタルツイン~製造業以外での可能性
近年、デジタルツインを使ったシミュレーションは、製造業の製品テストという範囲を超え、様々な分野への進出を果たしています。
実際に北海道大学では、デジタルツインに似た考え方「CPS(サイバー・フィジカル・システム)」を使い、除雪費用の削減や効率化を目指す研究を行っています。CPSでは、現実世界の降雪量データや道路状況データをもとに、コンピュータ上で豪雪被害をシュミレーションするわけです。原理的には、デジタルツインとほぼ同一のものといえるでしょう。
また、物流業では調達先、配送センター、店舗/消費者宅といった一連の物流プロセス最適化に、デジタルツインの導入が検討されているそうです。将来的に深刻化が懸念される人手不足対策、さらには調達コスト削減の一環として、リードタイムや調達経路の再検討などにデジタルツインの活用が期待されています。
さらに今後は、石油や化学、食品、飲料といったプロセス業界でも、デジタルツインの適用が検討されています。実際に、フランスを拠点とする重電メーカー「シュナイダーエレクトリック」社の子会社では、2022年をめどにプロセス産業へのデジタルツイン提供を計画しており、プラント従業員のトレーニングやパフォーマンス計測への活用を想定しているとのことです。
IoTの活用で建設現場との親和性が高まる
このように異分野への進出が進むデジタルツインは、建設現場に関わる様々なシチュエーションにも対応できると考えられます。なぜなら、デジタルツインに再現されたモデルは様々な環境要因によって常に変化・更新されていくことが前提だからです。地理的条件や気候、作業員のパフォーマンスなどを考慮しながらデジタルツインでシミュレーションを行えば、建設現場の生産性を高めることは十分に可能なはずです。
ちなみに、デジタルツインの活用にはその根拠となる様々なデータが必要になります。実際に多くの建設会社において、IoTとクラウドシステムを活用した建設現場の監視・データ収集・自動制御などが行われており、デジタルツイン導入への土台は、既に出来上がりつつあるのです。
このようにデジタルツインは、高精度の「未来予測」に似た効果を発揮する仕組みといえます。作業機械の故障リスク、人手不足のリスク、天候が原因のスケジュール遅延リスクなどを事前に予測し、対策を講じられるわけです。
また、デジタルツインには施工段階だけではなく、運用の場面でも情報が活用できるというメリットがあります。例えば、空調やLED照明の電力消費量をリアルタイムに計測することで、快適性を損なうことのない電力供給も可能なため、オフィスビルのランニングコストの削減につながります。
建設事業にデジタルツインが活用されるに未来は、もうそこまで来ています。
- 佐京 正則
- IT業界にてエンジニアやERPコンサルタントとして勤務後、独立。主にITトレンドやビジネス、不動産投資などの記事を得意としている。