静岡市はプラモデルでできているらしい
静岡市にはプラモデルのような公衆電話があるらしい。僕は実際には見たことはないのだけれど、JR静岡駅北口には組み立て前のプラモデルを模した公衆電話が設置されているとニュースで知った。しかもこの公衆電話、実物大で実際に使用できるという。公衆電話はあまり使われなくなったが、これはぜひとも使ってみたい。
このプラモデル式公衆電話は、静岡市が推進している地方創生プロジェクト「静岡市プラモデル化計画」の一環で誕生したものだそうだ。「静岡市プラモデル化計画」というネーミングがいい。静岡市には、バンダイやタミヤといった、有名な模型メーカーが本社を構えており、全国に出荷されるプラモデルのおよそ8割を生産しているのだそうだ。
静岡市では、これを街づくりに生かそうと、プラモデルを模した「プラモニュメント」の取り組みを2020年から始めた。この趣旨に賛同した電話会社が、件の公衆電話を設置したというわけ。これまでにも、ポスト(清水市役所 静岡庁舎 青葉通り側)やPR看板(JR静岡駅南口)でも同様の取り組みが行われている。こうなったら、静岡市の施設を全てプラモデルで作ってもらえると楽しいかもしれない。
建物もパーツで組み立てよう
建物を建てる方法に「ユニット化工法」というものがある。ユニット化工法は、通常現地で組み上げていく建築部材を、工場や敷地内の空いているスペースを活用して、あらかじめユニット単位で組み付けておき、そのユニットを大きな塊として組み立てる工法だ。メリットは工期短縮が見込めることや作業の安全性が高まること、デメリットは組み付けるスペースが必要だったり、大きな塊としてのユニットを運ぶのが大変なことが挙げられる。
2021年中国で、空き地に突如10階建てのビルが登場したことが話題になったことがある。ここで使われたのが、そのユニット化工法。部屋はボルトで連結され、後にバラバラにすることも可能。重量も10分の1以下と軽いのに、100倍の強度を誇り、巨大地震や台風などにも耐えるという。エネルギーコストは従来のビルの1/5から1/10に抑えられるし、200階建てのビルも建てられる。そして耐用年数はなんと1000年超。さらに、建設そのものにかかる時間はわずか29時間というから驚きだ。
日本ではユニット化工法を1971年頃から活用している。それに先駆けて1962年、建築家・黒川紀章は「箱型量産アパート基本計画」を発表している。これは数種類の箱型のコンクリートユニットの組み合わせによって公団型の集合住宅をつくるというもの。この発想の基礎となっているのが、黒川や菊竹清訓らが1959年に唱えたメタボリズム運動。メタボリズムは新陳代謝という意味で、社会の変化や人口の成長に合わせて有機的に成長する都市や建築を創造するという思想だった。
建物のユニット化が都市のあり方を変える
建物は、その建設地や用途の特性に合わせて、一品一様で建てられる。躯体と呼ばれる建物の骨格や、血管や消化器官に例えられる設備の配管や配線、皮膚と言ってよい外装や内装のすべてが、建物ごとに異なっており、一つとして同じものはない。使われているパーツ一つ一つは、カタログに載っている標準品なのに、建物に組み込まれる段階ですべてがカスタマイズされる。つまり、建物は膨大な加工品の塊であり、そのために多くの人の手が必要になる。そういった中でも、効率化を目指すための一つの解がユニット化だ。その意味で、建設の歴史はユニット化の歴史と言っても過言ではない。
建物はどこまでユニット化できるのだろう?
部材をユニット化する。仮設材は究極のユニット化部材だ。標準品を組み立てて構造物を作り上げる。柱、梁、床、階段など様々な部材をルールに従って組み立てるだけで、十分に強い構造体になる。
機能をユニット化する。ユニットバスは典型例かもしれない。標準的なスペースに、必要なバスタブ、水栓、配管などを取り付ける。それだけで機能的には必要十分な風呂場ができあがる。
部屋をユニット化する。最近は手術室や病室もユニット化されている。空間として求められる品質を担保し、必要な機材を備えたパッケージ商品としての手術室は、利用者の安心を生む効果もある。
建物をユニット化する。商業施設、ホテル、オフィス、工場、集合住宅など、それぞれがユニット化されているとしたらどうだろう。すでにユニット化という軽い印象のワードからは乖離している気もするが…オフィスビルユニットと工場ユニットを組み合わせることで、オフィス機能付き工場ができる。商業施設ユニットとマンションユニットとオフィスビルユニットを組み合わせることで複合施設ができる。病院ユニットとホテルユニットの組み合わせで老人介護施設をカスタマイズできるのではないだろうか。
ローコストで品質が高く、機能が充実している建物ユニットが確立されたなら、街づくりも大きく変わるかもしれない。時代の流れは速く、新しかったものでもすぐに古くなる。100年丈夫な建物も大事だが、時代と共に入れ替えの利くユニット方式の建築物が増えたなら、きっと街は今以上に便利になるのではないだろうか。そんな街を見てみたい。
- 大橋 博之
- ライター SFプロトタイピング フューチャリスト