2021.04.05

ConTECH.café

インスタ映えと著作権

「トレードドレス」をご存じ?

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)と著作権が関係しているとは知らなかった!?その発効にともない平成30年12月30日、著作権法も改正された。いままで日本では、著作物の保護期間は50年だったのが、70年に延長。たとえば、昨年は三島由紀夫没後50年だったが、昭和45年(1970)に亡くなったので、昭和46年(1971)年1月1日から起算して70年後の2040年1月1日まで保護されるわけだ。彼のUFO小説が今年からは青空文庫で読めると楽しみにしていた身にはとても残念だ。なにかと重宝している青空文庫も大幅に変わらざるを得ないだろう。

また、今回の改正では、名古屋の巨大喫茶店チェーンの、競合店の店舗外観(外装、店内構造および内装)の不当競争防止法違反をめぐる裁判が契機になった。結果は、商標やマーク、エンブレムと同様に「営業表示」として認められたのだ。

知的財産権の先進国アメリカでは、外観もとっくに権利対象だ。トレードドレス。全体的な外観ないしイメージを指すらしいが、トレードマークと同様に守るべき「商品の衣装」なのだ。新商品の発売のたびに徹夜の行列がニュースになるあのスマホショップを思い浮かべるとわかりやすい。誰が見てもあそこなのだ。

建造物の著作権は?

保護される著作物の種類をどれだけ言えるだろうか。文学や論文などの言語(講演も該当する)、音楽(もちろん歌詞も)、舞踊・無言劇(パントマイムの振り付けがそれ)、美術(漫画も入る。舞台装置、美術工芸品も)、地図・図形(学術的な図面、図表、模型も)、映画(ネット配信動画、ゲームソフト、CFも、)写真、コンピュータ・プログラム。では、建築は?

もちろん保護される。ただ「芸術的な建造物」が。うーん、どう判断すればいいのか・・・。設計図は、図形の著作物の扱いになっている。このほかに、翻訳や翻案、編曲、変形などは二次的著作物、辞書や新聞、雑誌などは編集著作物、その編集著作物のうちコンピュータで検索できるものもデータベースの著作物なのだ。補足的に書かれているが、個人的にはこの項目、即、あたまに叩き込んだ。

インスタグラムなどSNSをふだんのコミュニケーションにしている方は、要チェックだ。確かに、建造物に関しては、そんなにシビアな感じはしない。しかし、建造物はインスタ映えの常連アイテムだし、多くの写真に写りこむ。商業目的以外はわりとゆるいとは言え、安易な撮影は禁物。京都の有名寺院では、撮影禁止のところも多い。軽い気持ちで撮影したら、建造物侵入罪に問われることもある。所有者の施設管理権が発生するのだ。

パリに行く。ブログにエッフェル塔をバックにしたはいチーズをアップ。昼間なら、オーケー。でも、夜間だと、ライトアップされたエッフェル塔は、照明デザインが保護対象になる。とにかく、事前の許可申請を忘れないことだ。

世界遺産の五箇荘がもし実家だったら、とふと思った。いろいろと、大変だろう。それ以上は考えないことにした。

われわれは、ホモ・サピエンスでありホモ・ユーリアスなんだ

こうして、著作権法について、つらつら思いを巡らしているうちに、至極当然なことに気づく。人間は、この社会に生きている限り誰しもが「法律的生き物(HOMO JURIS)」なんだという、凡庸な結論。「無法者」。法に抵触するからそう呼ばれ、法と無関係と言う意味ではない。事程左様に、生まれたときから、幕を下ろしたその後でさえ、法が付きまとう。空気と同様に、いざとなってようやく意識する。しかし、なくなったら、困る。社会は成立しなくなる。

静岡市清水区でのこと。1900年という由緒のある草薙神社の参道入り口の道路にそびえる大鳥居。地域のランドマークとして「親しまれて」いる鉄筋コンクリート製の高さ12メートルのそれが老朽化して破損、危険な状態に。しかし、その鳥居は神社が建てたものでも所有するものではなく、持ち主が不明。とうぜん道路管理者の静岡市が苦慮。廃墟や空家問題で必ず出てくる所有権に私有財産という難題。

無味乾燥なイメージの法律。しかし、ちょっと勉強して、ちょっと想像力の翼をバタバタしてみると、けっこうツッコミどころがあり、面白い。失笑もする。

何かにつけ「個人情報だから」とつっけんどんにするより、いい暇つぶしができる。

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト