2020.08.31

ConTECH.café

沈思□考 熟思□想

このごろ都心の「木造」がとてもきになる きになる

□に入る漢字は?二つとも同じ。「黙」。ピンポーン!ともに深く考えること。

今回は、新国立競技場をはじめ、このところ都心などでしばしば目にする公共施設や商業施設などの「木造」「木材」について思いを巡らせてみたい。だから沈思「木」考、熟思「木」想だ。

いまも日本は木造建物だらけである。だが、大半は低層で小さい。深刻な空家問題の主人公でもある。ただ、温暖化対策が世界共通の最重要課題の昨今、日本はずっと二酸化炭素を固定する木材による建築技術と伝統を連綿と持ち続けてきたわけだから、世界にもっと誇っていいはずなのに、どうも「都市木造」(都市の中大規模の木造建物をそう呼ぶらしい)になると、欧米に大きく後れを取っているらしい。事実、ロンドンでは9階建ての集合住宅が2008年にでき、2017年にはバンクーバーに18階建てのブリティッシュコロンビア大学の学生寮が姿を現した。

こうした都市木造が可能になった背景には、「マスティンバー」の登場が大きい。間伐材や製材で出るチップなど複数の木材を組み合わせた高強度で不燃性の高い集成材だ。CLT(クロスラミネーティッドティンバー 直交集成板)とか耳にしたことがあるだろう。どの方向からの力にも強いので、5階建ても可能にした。こうした木材を、「エンジニアード・ウッド」と呼ぶ。木と言えば、無垢がまず浮かび、御神木を連想してしまうわたしは、それって工業品でしょ、木って呼べるの?燃えるから木じゃないの?と茶々を入れたくなる。

ちなみに、大槻は「大きなケヤキ」である。古来より神聖な木とされ、その下は神域で斎槻(ゆつき)と呼ばれていた。

東京の40%は森林!?

約53,000ヘクタール。多摩エリアに広がる森林の面積。その半分超がスギ、ヒノキの人工林。八丈島など島嶼部には天然林を中心に約26,000ヘクタール。東京は、世界にも稀な「自然豊かな」メガロポリスなのだ。だのに、コンクリートジャングルだの、東京砂漠だの勝手なレッテルを張ってしまう。

特に東京に限らず都会に暮らす人間はいい気なもので、木のぬくもりにあこがれ、古民家○○はキラーコンテンツだ。

けれど、東京の森とか林業についてはまるで知らない。と言うよりは、とんと関心はない。関係は、大いにあるのに。

いま、林業従事者は100人いるかどうからしい。とうぜん、手入れが行き届かなくなり、森は荒れ、二酸化炭素吸収能力が低下の一途。つまり、温暖化防止機能がガクンと落ちているのだ。だから、皮肉なことに、成長したスギは、大量の花粉を情け容赦なく吐き出す。結果は…多くの方が、身をもってご存じの通りである。

近年の都市木造の活発化には、こうしたスギがいま伐採期にあることと、多少は関係しているのかもしれない。もちろん木造を強力に推進する法整備と国の方針もあるだろうが。

京都の路地(ろーじ)を歩きながら

京都で学生時代を過ごし、サラリーマンになってからも、上京するまで、京都のぼろアパート(いわゆる木賃)から大阪まで通っていた。だから、町家の並ぶ風景は馴染みのあるものだった。そのどことなく田舎っぽい風情が好きだった。もちろん祇園の花見小路は、本来町衆は足を踏み入れない粋筋の街だから別格の雰囲気があるのだが。それが、久しぶりに昨年、路地をぶらぶらして驚いた。インバウンドでとんでもないことになっているのは知っていたが、言葉を失った。京都市の調査では、町家の取り壊しが相次ぎ、2016年には約4万軒あったのが、猛スピードで減少。見知った風景は、もうないのだ。

ホッとしたのは、京大吉田キャンパスの吉田寮。現存する学生寮で最古の木造。魔窟、あるいはカオスという形容は、この吉田寮のためにある。

東京でいま産声を上げた都市木造で、50年、100年と、時代時代の空気や気分を重層的に蓄えながら生き続けるのは何棟くらいあるのだろうか。はてさて。

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト