2020.10.19

ConTECH.café

津波てんでんことタイムライン防災

今年も、25回目の1.17がやって来た、9回目の3.11が巡って来た

寺田寅彦は「天災は忘れたころにやってくる」と言ったのに、忘れる間もなく、この日本列島を次々と襲って来る。水害だけでも、2年前の西日本を中心に甚大な被害を出した「平成30年7月豪雨」は、倉敷の広範囲な冠水の光景がまだ生々しくよみがえる。そして、昨年は、台風19号だ。北陸新幹線の車両基地の水没シーンは強烈に脳裏に焼き付いている。

これだけの痛い経験をし、つらい光景をこれでもかと見てきたのに、どれだけの学習をわれわれはしてきただろうかと自問する。コンピュータは日夜ディープラーニングにいそしみ、成果を着実に出している。デハ、ゴシュジンサマ、アナタハ、ドウデスカ。どこからか、そんな声が聞こえてきたような。

確かに、線状降水帯とか正常性バイアスとかの専門用語は、けっこう多く知識としてインプットはした。けれどもゲリラ豪雨はもう一般名詞として口にするが、正式な気象用語ではないことを知らない。NHKの天気予報やニュースでは使っていない。爆弾低気圧も同様。読売新聞の記事には出てこない。まあこの程度なら仕方ないねですまされるだろうが、避難情報については、やはりしっかりと理解しておいたほうがいい。

避難情報、避難指示、避難勧告、避難命令

この小見出しに何の疑問を持たない人は、つい最近までのわたし同様の「要注意」である。まず、並び順が間違い。かつ、表記が改められているのもある。

順番としては、危険度・緊急性が低い順に避難情報・高齢者等避難開始→避難勧告→避難指示(緊急)の3つである。避難命令は、ない。災害対策基本法に存在しない言葉なのだ。警戒区域が設定された場合、それが実質的な避難命令になる。そうなると、そこに無断で入ると法的に罰せられる。ただ、避難勧告も避難指示(緊急)も法的な強制力はない(つまり罰せられない)ので、みんなけっこう、逃げない。自分は、大丈夫。それには、何の根拠もない。逆に、あぶない。正常性バイアス。あたまでは、分かっているのだが、自分事として想像できないのだ。だって、人間だもの、と。3.11では、津波てんでんこの有効性をこれでもかと痛感したのに。

なるほど、勧告と指示の違いはどうもピンとこない。こうした、わたしのような一般国民の多さに気づいてくれたのか、令和になって早々に、5段階の「警戒レベル」を使って伝えるようにしてくれた。警戒レベル5は、もう災害が発生しているので誰にだってわかる。だから、警戒レベル4ならば、すぐ逃げる!逃げろ!なのだ。

必須の防災リテラシーとしての「タイムライン」

都民の方あるいは東京で働いておられる方に尋ねたい。

東京マイ・タイムラインと言う立派な紙ケース入り冊子が、住んでいる区や市町村の窓口で申し出れば貰えるのをご存じだろうか?ホームページからもダウンロードできるので、絶対に入手されたほうがいい。LINEでおなじみの「タイムライン」。防災においても、理解しておいたほうがいいマストワードだ。

昨年の台風19号では、JRや私鉄などの交通機関の運行状況にヤキモキされたことだろう。とくに、計画運休にはオーマイガー!だった人も多いはずだ。その何日前から時間を追って、なすべき対応策を事前に具体的に決めておくのがタイムラインだ。

それを、個人でもやっておきませんかというのが、今回手に入れた冊子の趣旨である。わたしの場合、住んでいる足立区が配布したハザードマップなどを手元に揃え、台風19号のときを思い出しながら、わたしと妻、近所に住む息子、そしてサ高住に暮らす母の4人のマイタイムラインシートを作ってみた。すべき行動を書き出し、あとは行動シールが付いているので、項目とか要するだろう時間を記入して張るだけなのに、けっこう手間取りかかり疲れた。

国交省の千曲川河川事務所のホームページを見ながらやったのだが、これが意外に役立った。「はん濫シミュレーション」のページなど、当時のニュース映像がまだ脳裏に残っているためか、もしそこにいたらと、想像力が活発に働いたのだ。

この冊子、実際にシートまで作ってみることで価値が出る。じゃないと、もったいない。なぜなら、防災意識の醸成には、「自分事」として意識に浮かび上がらせることが出発点だから。それをして初めて絵に描いた餅ではなくなる。それしか道はない。

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト