ブラタモリで土木への興味がムクムク
NHKで定期的に、ほぼ欠かせず見ている番組の一つが『ブラタモリ』。タモリが、ちょっと天然の入った天真爛漫な女子アナと、訪れた街をブラブラと歩きながらその街の知られざる暮らし、文化、歴史、自然を再発見するという45分番組だ。
旅番組というジャンルだが、民放のように観光協会とのタイアップとか旅行雑誌の後追い的な感じはまったくなく、独自の路線を守っている。定番のご当地グルメ礼賛はほとんどない。タモリの地形や地質、鉱物へのハンパない偏愛をベースに、これまたハンパない雑学が奥行きと幅を与え、番組を上質な知的エンタテインメントにしている。わたしは、この番組で、道路とかトンネルとか坂道への「鑑賞のツボ」を教わり、「土木の建造物ってなんかいい感じ」というアンテナをアタマの中に建てた。
第130回は「甲府盆地」。山梨はこの数年、クリスマスあたりに都留市に行っているが、大月から都留にかけての河岸段丘がお気に入りの風景だ。番組では、都留市のリニアの実験施設に行き試乗していた。
サステナブルの原点
今回も、知的興奮を与えてくれた。武田信玄の見事な治水事業である「竜王信玄堤」。八ヶ岳、南アルプス、富士山に囲まれた甲府盆地は、大小さまざまな川が縦横にながれ、水害は日常茶飯だった。それを、川を付け替えたりして抜本的に改良整備したのが信玄だった。
タモリが訪れたのは甲斐市の竜王信玄堤。川中には、木と石で牛の形に組んだ構築物が何個か並んでいる。水流をコントロールする。その名も「聖牛」。なんとも素晴らしい命名だ。
堤の向こうか、神輿を担いだお囃子の一団が練り歩いてくる。なんとピンクの衣装をまとい化粧した男たちだ。浅間神社の堤防の安全を祈念する川除祭礼「御幸祭(おみゆきさん)」。
宮司が語った由来に「ユーリカ!」だった。定期的に堤防を練り歩くことで、堤防をより強固に踏み固める。それを、代々引き継いでいく。
こうした公共工事は、構造物が完成したでハイ終わりではない。自然の猛威を受けるたびに不都合が見つかり、そのつど改良改善を重ねていく。ネバーエンディングなのだ。その維持的作業の一部を、民衆に託す。それも、お上の言いつけでいやいや参加ではなく、お祭りという場を通して神様のために、非日常をエンジョイしながら「お役に立つ」。まさにサステナブル土木だ。見事な民心掌握だ。やっぱり信玄さんはエラい!
ついでながら、東京は隅田川の墨堤。いまでも花見の名所だが、八代将軍徳川吉宗の公共工事の産物なのである。
花見が庶民にも娯楽として認められたころ、進行していた隅田川の護岸工事で、桜を植えることで堤を頑健にするというアイデアを実行。さらには、花見に開放することで新しもの好きの江戸っ子たちは喜び勇んで堤に繰り出してくる。人夫を雇うことなく、命令することもなく、江戸っ子たちが率先して踏み固めてくれる。花見のシーズンごとに、その「無償の労働」は半永久的につづくわけだ。クール・アイディア!
AI→人間 人間→AI 要はバトンタッチ次第だ
こうした先人の努力が数多あれど、やはり我が国は、いまだ自然災害の多い国である。ただ、当時に比べると、助っ人が格段に増えている。科学技術と工業技術という恩恵だ。
AIをどう自然災害対策に活用していくか。第五期科学技術基本計画にも、超スマート社会サービスプラットフォームとして「自然災害に対する強靭な社会」ならびに「インフラ維持管理・更新」そして「地球環境情報プラットフォーム」とちゃんと謳っている。あとは、試行錯誤を覚悟のうえで実行フェーズへと果敢に一歩踏み出すだけだ。
医者の世界では、病名診断の領域でAIが一定のミッションを果たしている。機械の強みを遺憾なく発揮して、膨大な症状などのデータをインプットし、それをエビデンスに可能性の高い病名を特定できる(アウトプットできる)レベルまで達している。しかし、いま現在では、AIの出番はそこまで。手術や投薬も含めた治療の最終判断と実行は、やはり信用のおける生身のドクターなのである。
自然災害へのAI活用でも同じプロセスを踏むのだろう。
圧倒的な観測データで「ある予測」が驚異の精度で出せたとしても、どう避難なり予防なりの行動に移すかは人間マターである。この情報過多社会の中で、正常性バイアスというやっかいさを抱えているのも、また人間なのである。
要はAIとの総力戦だが、そのためにはOne for all. All for one.と利他的にチームプレーができる人間力を持った人間がプレーヤーであることが前提になるような気がする。理想論かな?
- 大槻 陽一
- 有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト