2020.01.06

ConTECH.café

鳶職のズボンはなぜダボダボなのか

「#僧衣でできるもん」が提起したこと

2018年末から2019年の年始にかけて、ネット上で盛り上がった、お坊さんたちの見事なパフォーマンス映像。

きっかけは、福井のお坊さんが法事に出向く際、僧衣で車を運転中、検問で、僧衣は、袖や裾が運転の邪魔になり運転に支障をきたすと違反切符をきられたことによる。

そのお坊さんは、いままで僧衣で運転し、一度も事故などなく、危険な目に遭ったこともないと支払いを拒否。その顛末が新聞報道されたことで、各地のお坊さんが、それはおかしいと僧衣姿で、華麗なステップでダンスしたり、軽やかにリフティングしたり、プロ顔負けのジャグリングを披露したりする映像をSNSに続々と投稿。

どの映像も、袖や裾はまったく邪魔になっておらず、逆に、僧衣での立ち居振る舞いがカッコいい。そのうえ、みんな、警察を声高に批判することはなく、そのパフォーマンス自体が、見事なプロテスタントになりえていた。

意外なのは、僧衣での運転を罰する罰しないは都道府県によりまちまちだということ。全国一律の交通法規による処罰ではないのだ。ことほど左様に、和服だから動きが不自由であると決めつけるのは、偏見である。円月殺法の眠狂四郎をはじめ時代劇を見れば、一目瞭然だ。

機能と安全性を両立させると、こうなった

鳶職人が履いているあのダボダボのシルエットのニッカポッカ(英語のknickerbockerは オランダ人移民の意味。ボでなくポと発音するのが主流のようだ)。職人は「ゴト着」と呼んでいるらしい。

足を高く上げたりひざを曲げたりする作業が多いと鳶職人にとっては、足運びがスムーズであることが絶対条件。ダボダボの余裕が、足の可動域を広げ、かつ汗をかいても足にべったりとまとわりつかないのだ。なるほど!

また、ダボダボが、ネコのひげの役割をする。障害物センサーである。鋭利な鉄骨の出っ張りなどにダボダボがまず触れると、瞬発的に危険回避できる。溶接などの火花も、直撃しにくい。なるほど!!

バランサーでもある。普通の足にぴったりのズボンで上がると、足がすくむらしい。なるほど!!!

鳶職人の現場で最も危険なのは、強風である。バタバタと風にたなびく体感で危険を察知するとともに、下にいる作業員にとっても人間風力計でもあるのだ。なるほど!!!!

男子競泳の水着に太ももまでカバーするスパッツタイプが多いのには流水力学的な理由があるように、ダボダボにも、見事に筋の通ったエビデンスがあるのだ。

作業着はプロアクティブの次元へ

作業現場は、過酷である。都会のど真ん中と言えども、基本、吹きっさらしである。土木工事になると、自然そのものが相手となる。

真夏の炎天下の、それも危険な場所での作業。年々高まる熱中症リスク。空調服も進化しているだろうが、同時に、作業員それぞれの心拍数や発汗をモニタリングする健康管理も労災上必須となる。起こりうる事態に先手を打つ予防保全が、現場品質を左右するのだ。

ちなみに看護師のユニホームの傾向は、点滴の準備の際に腕が上げやすいと同時に下着が見えないように伸縮性のある生地を採用するなど医療従事者の行動を考慮したものになっている。さらに、認知症の人への好刺激となる鮮やかな色味やキュートな柄のものが注目され、白衣を見ると緊張していつもより血圧が上昇する白衣高血圧も問題視され始めたことでカラー化が進んでいるという。

建設現場も、機能、安全といった物理的なことだけではなく、心理的効果も視野に入れる段階にきているのかもしれない。安全帯も、かつてのベルトタイプから、もしもの落下時の内臓へのダメージをなくすハーネスになっている。当然である。

しかし、事故は起こる。

そこで期待されているのが、ドローンの活用。人とマシンのスマートな役割分担が、ハイパフォーマンス、ローリスクの現場を実現するのだ。

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト