2019.09.17

ConTECH.café

赤レンガとジェンダー

JIS規格が先取りしていた!?

これを知っていたら、なかなか建築通ではないだろうか。

日本の近代化を支えたレンガの話である。お雇い外国人が製造方法を指導し、赤レンガ建築が続々と誕生した(日本初のレンガ工場設立は1870年)。木造建築しか知らない明治の人たちは、「これがハイカラちゅうものか」と、さぞや目を見張ったことだろう。

当時の写真を見ると、その工事現場では、性的分業(ジェンダー)の意識など露ほどもなく、女性も、男性と同じように、背負子に何十個ものレンガを積み上げ運搬している。いまの体格に比べたらずっと小柄な女性が、軽々と背負っている。逞しい。しかし、やはりそこは女性、慣れはあるにしろ、その肉体的ハンデは、想像を絶するものがあっただろう。

その「苦役」を、JIS規格が「解放」したのだ。

西洋レンガのサイズに比べトータルで10ミリ小さい、長さ(業界用語で「長手」)210×幅(同じく「小口」)100×厚さ60ミリ。

これを業界では「おなま」、厚さが半分の30ミリになったのが「はんぺん」、幅45ミリのを「ようかん」、幅30ミリのを「せんべい」と呼ぶ。ちょっと脱線。

この「10ミリ小さい」が画期的なのだ。清水建設 技術研究所の建設技術歴史展示室で持ち比べたのだが、持つ際の手のひらの開き具合、そして持ち上げて移動する負荷がまったく違うのだ。普通の体格の女性と小柄な女性が西洋レンガとJIS規格のレンガの山を右から左へ積み替えるビデオも見たが、西洋レンガでは二人とも重く難儀そうで、JIS規格のそれはラクそうに見えた。

名称は知っていたが、内容は?と問われると……

JIS規格という名称は、多くの人が知っていると思う。日本工業規格。工業製品についての国家規格、という程度には。

しかし、文字コードやプログラムコードなどの情報処理に関する規格もあり、かつ標準には強制と任意があり、一般的に任意のものを「標準=規格」と呼んでいるということになると、日本規格協会のホームページにアクセスして、ようやく理解した。

さらに、標準化の意義は?となると、好き放題にすると、無秩序になり混乱を招き、不便や不利益をもたらすと答えるのが精一杯。

経済・社会活動の利便性の確保(互換性の確保等)/生産の効率化(品種削減を通じての量産化等)/公正性を確保(消費者の利益の確保、取引の単純化等)/技術進歩の促進(新しい知識の創造や新技術の開発・普及の支援等)/安全や健康の保持/環境の保全等の観点から、技術文書として国レベルの「規格」を制定し、これを全国的に「統一」または「単純化」することが標準化の意義というわけだ。

一例として、トイレットペーパーのサイズの標準化について書かれているが、なるほど!

ジェンダーフリーとユニバーサルデザインの共通点

JIS規格の説明を読みながら、ふとユニバーサルデザインの考えを連想した。その連想から、ジェンダーフリーの考えと重なり合うような気がしてきた。

まず、ユニバーサルデザインの定義を、バリアフリーとの違いとともに確認しておこう。

何か困難が発生してようやくそれを軽減する処置をする事後的対策がバリアフリー。一方、いま何らかのハンデを抱える子どもやお年寄り、障害を抱える人たちだけではなく、誰もが特別な知識や技術・能力を持っていなくても安全で使いやすく、わかりやすく、間違いのないモノやコトを事前に用意する対策がユニバーサルデザインである。

ジェンダーフリーも、男だから、女だからではなく、生物的・社会的・文化的性差に関わりなく、誰もが平等にアクセス、アプローチ、そしてチャレンジでき、かつ公平で生きやすい環境整備、そのための社会の合意が大前提となる。

建設業界では、明治の女性がやっていたレンガの運搬のような「危険できつい一律の繰り返し」作業のロボット化がすでに始まっている。アームロボットが軽々とやってのける。パワースーツもあるから、女性であっても男性に引けを取らないだろう。しかし、男性にとっても、その作業はきつくて危険であるから、ロボットに任せるのが当然の帰結である。ロボットは、そのために生まれた。

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト