3度目にして気づき、知り、学び、無知卒業
昨年、マンションの理事会の理事の順番が回ってきた(各階ごとに部屋番号順に1人選出され、その期の理事会を構成する形式)。外壁の大規模修繕と並ぶ大仕事である「エレベーター交換」があった。現業者を含み数社からヒアリングし、プレゼンを受ける。そして、総会でたたき台を提示し、賛否を諮り、修正等を経て最終案をまとめるのだ。
もちろん管理会社のサポートあっての案件であったが、3度目にして、やっと理事らしい自覚が生まれた経験だった。20数年間、「チコちゃんに叱られる」ようなボーっとした住民(区分所有者)だったことに、やっと気づいたわけである。遅い!
つまり、「設備」に初めて目を向けたのだ。設備が建物の寿命を左右することを知ったのだ。ふだん暮らしていると、配管・配線など大半の設備が天井裏とか床下、そして共有部分に「隠されている」から見えない。見ようとまったく思わない。水漏れとか不都合があって、ようやく意識化される。水回りやガスなどは、その端末である水道の蛇口と排水口、ガスコンロ、トイレでかろうじて、そこからつながっているだろう「管」をイメージする程度でしか見ていなかったし、見えていなかった。
エレベーターのみならず設備は、充分にメンテナンスをすれば100年は持つといわれる躯体(構造)に比べ、早いもので10年、長くても30年程度で更新せざるを得ない。仕様もガラリと変わってしまう。わがマンションのエレベーターも、出来た当時とは異なる少数派の「駆動形式」になっていた。加えて、純正部品がもう製造されておらず在庫がなくなればメンテナンスが非常に困難になる。そんな「初歩の初歩」を学んだのだ。
設備は「見せない」。だから、地下なのか、屋上なのか
今回の経験でわかったことは、1階に電気とかの主要設備の場所があるということだ。わがマンションは、1階部分の3分の1にエレベーターホール、管理人室、ごみ置き場、郵便受け、総会などに使う共用スペースがあり、壁を隔てて駐車場になっている。
海抜0メートル地帯ではないが、綾瀬川と中川にはさまれたエリアで、豪雨があると、けっこうヤバいことになる。鬼怒川の大洪水のときは、中川があふれる寸前だった。区のシミュレーションを見ると、確実に水がつく。ということは、マンションの電源喪失の可能性はきわめて大。かつ、エレベーター交換で新たに生まれた機械室があったスペースは、確か備蓄倉庫にしたはずだ。それも1階に位置する。ああ、なんてこった。
素人だからこそ「営繕」リテラシーが必要なのかも
それは「大宝律令」にも記載される由緒あることばらしい。営造と修繕。前者の意味があることに注意を払わず、ずっと後者の意味で理解していた。国交省関東地方調整局のホームページを見てみると、確かに前者の業務も管轄。地方自治体の営繕部署の業務を見ると、富山県では両方をカバーし、鳥取県は主に修繕業務(保全)を担っている。
わたしは、こう解釈する。営造は基本的に「空間」をつくり、修繕は、空間の対義語である「時間」をもマネジメントすると。
人体になぞらえると、営造は「骨格と皮膚」つくることであり、それに、設備として脳、内臓、血液、筋肉等を適正かつ有機的に配置して新しく生命活動をさせる。一方、修繕は、「かかりつけ医」として、その建物の健康寿命を延ばすべく生涯にわたってQOLを維持していく。時には大がかりな外科的処置もし、とうぜん看取りもする。
そう考えると、営繕とは、どうしても見た目に左右される意匠系に比べ、地味で「表舞台から見えない」ぶん、とてつもなく奥深く、つねに「もっともっと」と高いハードルのらくらくクリアが要求され続ける世界といえる。
最後に、他愛もないことだが、わたしにとってはなんか嬉しかった「知るよろこび」について。空調は、「空気調和」の略。空気調節(調整)と思い込んでいたので、まさに、なるほど!いいことばだ。
- 大槻 陽一
- 有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト