建設分野のコンクリート施工において、コンクリートの造形に型枠を使用しない3Dプリンティングは、施工の省力化・省人化に寄与するだけでなく、造形する形状の自由度が高まることも大きなメリットです。在来工法では実現困難だった自由曲面形状も造形物の3次元データさえあれば容易に構築でき、意匠の表現の幅が大きく広がります。
ここではラクツムのプリント造形物の最新事例として、2022年春の開業を予定している複合開発街区「ミチノテラス豊洲」中央の広場状デッキを支える特殊形状の大型柱と、外構に設置された自由曲面形状のカラーベンチをご紹介します。
事例1 型枠レスで自由曲面 国内初、構造柱の型枠へ適用
オフィス棟とホテル棟をつなぐミチノテラスの下に位置するバスターミナルとなる空間を彩る、柔らかくねじれた曲面が印象的な柱にラクツムを適用しました。もともとは下部の断面が8角形、上部が12角形というデザインで、この複雑な形状の実現に頭を悩ませていた現場所長の安中は、ニュースリリースで自由曲面の造形を可能にするラクツムを知り、採用に踏み切りました。
自由曲面を従来工法で実現しようとすると、その形を型枠で表現できるような数学的・幾何学的な形状・寸法に置き換え、組み合わせる必要がありました。一方で、ラクツムを使えば一筆書きのようにセメント材料を一層ずつ積み上げることで、フリーハンドの自由曲面が造形可能になります。意匠設計を担当した垣中は、ラクツムの特性を活かすことで、型枠では表現ができなかった3次元曲面のデザインに挑戦し、ミチノテラスを支える幾何学的なひし形フレーム(梁)と融合する、全く新しい自由曲面柱を実現しました。
垣中は「最大の特徴となる、上にあがるにつれてねじれながら広がっていく柱の形状を作るにあたり、何度も試行錯誤を繰り返しました。ねじれや上部の広がり具合を大きくするとプリント中に崩壊するため、どの程度であれば製作が可能かを、技術研究所と協働し、バランスをとりながら、ラクツムの技術をデザインへと昇華させていきました。」とデザイン変更の過程を振り返ります。
安中は「設計、施工、技術の関係者の連携が非常に軽快だったおかげで、デザイン変更から現場搬入取付までの期間が非常に短かったのにもかかわらず、あっという間に完成した感じです。」と驚きを隠しませんでした。そして、ラクツム利用の今後に対しては「現在は建築基準法で規定される構造体としての利用ができないため、いわゆる埋設型枠としての活用にとどまっていますが、構造体としての利用が可能と認定されれば、応用の幅は飛躍的に大きくなると思います。」と期待を寄せています。
ラクツムによる自由曲面柱ができるまで
事例2 エルゴノミクスに基づく「みなもベンチ」
豊洲の海の波面をモチーフにデザインされた4種類のカラーラクツムによるグラデーション調のコンクリートベンチ。ラクツムとの出会いがどのようにインスピレーションをもたらしたか、設計担当者にお聞きしました。
「みなもベンチ」のアイディアはどのように生まれましたか?
当初は在来のコンクリートによるベンチ計画でしたが、ラクツムを知り、技術研究所で見た、ロボットアームがセメント材料を自在に打ち出す姿に、キャンバス上に建材を描く強い生命力のようなものを感じました。豊洲の波面が敷地線を飛び越えて跳ね上がり、柔らかな波面がそのまま、エルゴノミクスに依拠した、人を温かく包み込むベンチになる、というストーリーを想像しました。
技術研究所チームと打合せを重ねる中で、アームの可動域内の造形であれば、継ぎ目が出ない一括プリントで製作でき,ラクツムの高い力学特性により鉄筋補強も必要ないと伺い、色彩もアームの挙動に沿って連続的に変化させることができれば、ベンチの仕上げ表情に濃く表れるのでないかと考え、グラデ―ショナルな配色を相談しました。
計画から完成までで印象に残っていることは?
スケッチを基本として図面に変換される意匠設計者と挙動そのものが造形を生み出すロボットアームの振る舞いを制御する技研チームとの対話は、異なる言語をすり合わせるような挑戦でした。幾度もの試行錯誤を繰り返す中で、仮想世界の点群に、決してデータ化できない作り手の想いが加わることで、1つの作品が生みだされる事に心を動かされました。
ラクツムで今後やってみたいことはありますか?
たくさんありますが、1つは複数アームを使った造形、異種材の組み合わせです。僕らが片手で紙を押さえて線を描くように、両の手を持つロボットと対話をしてみたいです。