2018.10.01

テクニカルニュース

生産技術

トンネル掘進計画をAIが最適化「シールド掘進計画支援システム」

当社は、AIを活用してシールド工事のトンネル掘進計画を最適化する「シールド掘進計画支援システム」を開発しました。

シールド工事では、施工開始前にトンネル計画線に対するシールド機の運転方法とセグメントの割り付け方法についてシミュレーションを行い、掘進のための計画値をあらかじめ設定しています。特に曲線部については、曲線半径に応じたシールド機の方向制御や、形状の異なる複数セグメントの配置方法などを入念に計画する必要があります。従来、これらの計画値は、シールド機の形状やトンネルの曲線半径等に基づき、三角関数を用いた理論計算により現場技術者が算出していました。

当社が開発したシールド掘進計画支援システムは、AIがトンネル計画線に応じたシールド機操作の計画値、セグメント配置計画を自ら設定し、自己学習を繰り返しながら、これらを改善、最適化していくシステムです。掘進開始前の計画段階における生産性の向上はもちろん、掘進開始後の指示書作成にも活用できるなど、現場技術者の日々の労働時間削減にもつながることが期待できます。

本システムは、AIなどの最新技術を用いて生産性と安全性の飛躍的向上を図る次世代型トンネル構築システムの一環として開発されました。当社では、本システムに加え、シールド機の掘進操作自動化に向けた技術開発を進めており、現在、熟練オペレータのシールド機操作行動を再現する「土圧制御AIモデル」「方向制御AIモデル」の開発にも取り組んでいます。

名古屋工業大学との共同開発

シールド掘進計画支援システムを用いた計画(例)
シールド掘進計画支援システムを用いた計画(例)

シールド掘進計画支援システムの概要

シールド掘進計画支援システムは、AIが試行錯誤を繰り返しながら自己学習することで最適解を導く強化学習を利用したシステムです。

本システムでは、シールド掘進をゲームに見立て、与えられたトンネル計画線に応じてAIが自ら設定したシールド機操作の計画値、セグメント配置計画を試行条件として模擬掘進を行い、その結果を得点化します。AIは得点を最大化することを目的に試行条件を改善しながら模擬掘進を繰り返し、これ以上得点を上積みできない試行条件に達した段階で、これを最適解とする仕組みとなっています。

シミュレーションイメージ

試行条件の設定

トンネル計画線やシールドマシンの形状、セグメントの種類などの情報をAIに与え、シールド機操作の計画値、セグメントの配置計画などの試行条件を設定させます。

AIにはトンネルやシールドマシン、セグメントなどに関する情報が与えられる。AIは、これらの情報に基づいて、自ら試行条件を設定する
AIにはトンネルやシールドマシン、セグメントなどに関する情報が与えられる。AIは、これらの情報に基づいて、自ら試行条件を設定する

試行と結果の得点化

AIは、自らが設定した試行条件に基づき模擬掘進を開始。結果は、トンネル線形に対する掘進軌跡の誤差や、シールド機とセグメント・掘削地山との干渉度合等を評価指標として得点化します。AIは、この得点を最大化することを目的に、試行を繰り返します。

なお、模擬掘進中に掘進誤差の許容値を上回った場合や、シールド機とセグメントが干渉する可能性が出てきた場合は、その時点で掘進終了となります。

試行初期:トンネルの計画線から大きくずれているため模擬掘進終了。シールド機は目標地点に到達できない
試行初期:トンネルの計画線から大きくずれているため模擬掘進終了。シールド機は目標地点に到達できない
試行中期:シールド機は目標地点に到達できたが、得点が低い
試行中期:シールド機は目標地点に到達できたが、得点が低い

計画完成

AIは膨大な試行を重ねる中で、どのように条件を設定すれば高得点を獲得できるか自己学習し、最終的にそれ以上は上積みできない最高得点に到達します。この段階の試行条件が最適解であり、実際の掘進計画に活用されます。

計画完成:最高得点に到達した試行条件が最適解として掘進計画に活用される
計画完成:最高得点に到達した試行条件が最適解として掘進計画に活用される

日々の掘進計画書作成にも活用可能

本システムは、直近の掘進状況を踏まえた計画修正シミュレーションをAIに実施させることで、掘進開始後の掘進指示書の作成にも活用できるため、計画時の生産性向上に留まらず、現場技術者の日々の労働時間削減にもつながることが期待できます。

参考)曲線部の掘進計画

曲線部の施工では、掘進中のシールド機が地山と干渉しないよう掘削面を大き目に掘削する「余掘り」や、シールド機本体の前胴部と後胴部に角度を付けて屈曲させる「中折れ操作」を行いながら掘削を進めます。

そのため掘進計画の立案にあたっては、余掘りのタイミングや掘削量、シールド機の中折れ角度の計画値、形状の異なる複数セグメントの配置計画などをあらかじめ設定しておく必要があります。

曲線部の掘進計画

実工事の従来方法と比較し、システムの実用性を検証

本システムは現在、福岡市内のシールド工事「唐の原第一雨水幹線築造工事」などの実工事において、従来方法による計画と比較を行い、その実用性を検証している段階です。

また、当社ではシールド工事におけるAI活用の取り組みとして、シールド機の掘進操作の自動化に向けた技術開発も進めており、現在、熟練オペレータのシールド機操作行動を再現する「土圧制御AIモデル」「方向制御AIモデル」の開発にも取り組んでいます。

今後は、両モデルを組み込んだ操作ガイダンスシステムと本システムを融合し、計画から掘進管理・実操作までを行うAIシールドシステムとして、安全性や予測精度を実現場で検証していく予定です。