当社は、3次元スキャナーとプロジェクションマッピング技術を組み合わせ、山岳トンネル底部の掘削具合を可視化する「SP-MAPS®」※を開発しました。
⼭岳トンネル⼯事では、地質の悪い地盤を掘削する際に、所定の間隔でアーチ型の鋼製⽀保⼯を建て込むとともに、吹付けコンクリートなどを打設します。また、掘進方向における掘削面(切羽)の掘削がある程度進んだ後に、底部にはインバートコンクリート(以下インバート)と呼ぶコンクリート製の底盤を築き、上部⽀保⼯と⼀体化してトンネルの変形、崩落を防いでいます。コンクリートの厚さ、トンネルの内空(内側の空間)を確保するためには、トンネル底部を設計通りの深さまで掘削しなければなりません。他⽅、掘削しすぎると処理する⼟砂量が増え、打設するコンクリート量も増加してしまいます。そのため作業は掘削具合を確認しながら⾏いますが、現状は掘削作業を⼀時中断した上で、複数の作業員が掘削⽬標の形状をかたどった施⼯⽤定規や⽷を使い1断面あたり10分から15分かけて⾏っており、掘削効率を低下させる要因となっています。
当社が開発した「SP-MAPS」は、機材の設置から掘削具合の確認まで1人の作業員で行うことが可能であり、計測から照射までに必要な時間も1分程度と、大幅な省人化・省力化を実現します。加えて、掘削具合確認のために作業員が掘削領域に立ち入る必要がないため、作業の安全性も向上します。
本システムは、施⼯中の⼭岳トンネルで実証試験を⾏い、システムの精度や投影画像の視認性などを確認しています。今後は、⼭岳トンネル⼯事におけるi-Constructionの推進を⾒据え、機材の軽量・⼩型化や画像更新速度の向上など、システムの改良に取り組んでいます。
Scanning and Projection MAPping System。照射箇所の形状計測結果をもとに作成した画像を照射する施工管理システム
インデックス
「SP-MAPS」の概要
システム構成
本システムは、3次元スキャナーとプロジェクターを一体化した形状計測・照射装置と、掘削領域に投影する画像データを生成するPC・解析ソフト、装置の位置情報を得るためのドーム型マーカー(発泡スチロール製、直径30cm)から構成されます。マーカーは掘削領域近傍の測量機器で位置出し済みの箇所に、また、形状計測・照射装置とPCは掘削領域近傍にそれぞれ設置します。
システムの動作
最初に、形状計測・照射装置の頂部にある3次元スキャナーが掘削領域と周辺の形状データを取得し、解析ソフトに送ります。解析ソフトは形状データからスキャナーの向きを計算するとともにマーカーを基準点として装置自身の位置情報を割り出し、位置情報を基に設計値と計測値の差異を計算して掘削の過不足に応じて色分けされた画像データを生成。画像データは形状計測・照射装置に送られ、プロジェクターからトンネル底面に照射される仕組みとなっています。
掘削の過不足については5cm単位(掘削重機のツメとほぼ同じ大きさ)で表示、装置から照射する箇所までの距離が約10mの場合、一度に照射できる範囲は約30m2(幅4m×奥行き7〜8m)です。また、計測から解析・照射までに必要な時間は1分程度です。
参考:従来の掘削具合確認方法
掘削領域付近のトンネル側面(両側)に釘を打ち、その間に計測の基準となる水糸を張って、施工用定規などを用いて掘削具合を確認します。2名以上の作業員が必要となる上、1断面の確認には10〜15分かかります。また、足場が不安定な掘削箇所に立ち入る必要があり、安全確保にも気を配る必要があります。
実証試験で効果を確認
本システムの開発にあたっては、施⼯中の⼭岳トンネル⼯事において実証試験を⾏い、掘削具合判定の基となる形状計測、照射装置の位置推定、照射画像の精度について確認しました。照射画像を数分おきに更新するよう設定すれば、掘削進捗をほぼリアルタイムで把握でき、経験の浅い作業員でも掘削を必要とする場所と量が⼀⽬でわかるなど、作業効率向上に効果のあることが確かめられました。
従来技術との比較
従来技術 | SP-MAPS | |
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計測時間(60m2) | 約60〜90分 (1断面10〜15分×6断面の場合) |
約19分 (装置設置約15分+1箇所約1分×4箇所の場合) |
計測に要する人数 | 2名以上 | 1名 |