清水建設の技術研究所では、2008年より青少年を対象とした無料の公開講座「シミズ・オープン・アカデミー(SOA)」を開催しています。
コロナ禍により対面での開催を休止せざるを得なくなった2020年からは、オンライン講座を開始。継続した活動が評価され、2018年から4年連続で企業メセナ協議会の「This is MECENAT」を受賞しました。
そこで、10年以上にわたるSOAの活動について、シミズ・オープン・アカデミー推進室 高木健治室長と林章二上席研究員にお話を伺いました。
シミズ・オープン・アカデミー推進室 室長
高木 健治(たかぎ けんじ)
シミズ・オープン・アカデミー推進室 上席研究員
林 章二(はやし しょうじ)
青少年に建設分野に興味を持って欲しい
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シミズ・オープン・アカデミー(SOA)が始まったきっかけを教えて下さい。
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高木
当時の社会的な背景として、青少年の理科離れが懸念されていました。そのため「青少年にもっと建設分野への興味を持って欲しい」という想いがあったんです。
そこで、ものづくりの面白さ、建設の奥深さを、研究所の我々から直接伝える機会を設ける。それによりものづくりの将来を担う人材育成に貢献できたらと考え、SOAがスタートしました。 -
林
技術研究所の研究施設は一般の方も興味を持たれるでしょうし、日本の建設会社の特徴のひとつです。これを活用して建設の面白さを知ってもらう。研究所を開催場所とし、研究員自らが施設見学の案内役をし、専門性を活かした講義を行うといった魅力あるプログラムを提供することになりました。「アカデミー」と名付けたのは、専門家が解説するからです。
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高木
社会貢献活動の一環として建設業への理解を深めながら、清水建設をより知っていただけるような、当社の歴史や技術力を伝える内容としました。
講師という新たなチャレンジが研究員にも刺激に
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どのようなプログラムを組まれて来たのでしょうか?
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高木
プログラムは「テクニカルツアー」「セミナー・シンポジウム」「イベント」の3種類です。学校に講師を派遣するケースもあります。
テクニカルツアーは、申し込みに応じて随時受講できるスタイルで、スタート当初は4分野(歴史・未来、環境・情報、安全安心、ものづくり)、17テーマを設定していました。内容は、専門の研究員による講義20分と技研施設見学100分を組み合わせた2時間のプログラムです。 -
林
講義の内容は、SOAの開催が決まった際に、研究員から募集しました。すると、かなりの数が上がってきました。研究員にも「広く伝えたい」という気持ちが強かったんです。
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高木
テクニカルツアーにはこれまで国内41都道府県から受講があり、日本全国から来ていただいています。音、揺れ、風など肌で感じる体験を通して得られる感動は講義を聴くのと違って印象に強く残ります。実験棟を生で見学できる技術研究所の特徴を活かせていると思います。
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林
学校に講師を派遣する講師派遣セミナーは、リクエストに応じて研究員2、3名が出向き講義を行います。今でこそ、企業が学校に出向いてレクチャーすることはよく行われるようになりましたが、当時はまだ珍しかったようです。
ちなみに、海外の大学でも開催しています。日本の建設技術を伝えるCSR活動の一環として海外の拠点と我々がタイアップしています。これまでに20回くらいの実績があります。 -
高木
テクニカルツアーでは、どうしても団体の方が対象となります。個人で関心のある方もいるよね、ということからシンポジウムをやろう、遠方で研究所に来られない学生さんには講師を派遣しようと、間口を広げていきました。
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林
研究員と聞くと研究に没頭しているといったイメージを持たれがちですが、そうでもありません。普段接する機会が少ない学生の皆さんに対してわかりやすく技術を紹介するというチャレンジは、研究員にも刺激になるようです。普段とは別の、新たな気付きを得ることができているようです。
社会の動向で人気のプログラムは変化する
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どのようなプログラムに人気がありますか?
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林
日本は地震国です。建物と地震はイメージが結びつきやすいので、地震の揺れや対策技術は関心の高いテーマです。また、環境問題も関心が高く、ビオトープ(生物多様性空間)を見学しながらの自然環境の話も人気ですね。
変化を感じたのは2011年に起きた東日本大震災の後のことです。震災後しばらくはエネルギー問題に関心が高まりました。地震関連技術、安心安全の講義もより注目されるようになり、社会動向によって興味が大きく変わることを実感しました。 -
高木
未来の話も人気です。シミズ・ドリームを知っている中高生のなかには「清水建設では宇宙ホテルや月面基地を作ろうとしていますよね」と質問する生徒さんもいます。
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印象深かったことはどのようなことでしょう?
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林
南三陸の中学校から、生徒さんが震災を学習したいと来られたことです。「研究してきたことを発表させてください」と申し出られたのでお願いしたところ、身近で感じたことをきちんと分析して、これからどうすべきかを調査研究されたことに、とても感心しました。これが一番記憶に残っています。実体験は子どもたちの成長に影響を与えるのだと私が勉強させられました。
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高木
私は「夏休み高校生セミナー」が印象的でした。全国の高校生から希望者を集め、半日から一日かけてさまざまな体験をするというものです。最初は初対面の生徒さん同士ということもあって、よそよそしい感じですが、プログラムが進むにしたがって、目の輝きが違ってくる。とても積極的になっていきます。最後はお互い打ち解けたということもあるのでしょう、活発な議論になるんです。毎回、「これほど成長するのか」と驚きます。担当の研究員たちも、「高校生たちの吸収力はすごい」と感動していました。
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SOAに参加された方で入社された方もいると聞いています。
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高木
毎年、新入社員の研修の一環で技術研究所の見学を行っているのですが、私が挨拶に立って、「中学高校の頃にSOAを受けたことがある人?見学に来たことがある人?」と聞くと、2~3人は手を上げてくれる。全員がSOAがきっかけとは限りませんが、なかにはSOAでの体験から建築や土木、ものづくりに興味を持ち、大学で勉強して入社してくれた人もいるようです。
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林
入社先が当社に限らなくてもいいんです。SOAが、建築に限らず、広く理工系への興味を呼び起こし、ものづくりに携わる多くの人財が育つことを期待しています。
SOAが建設と学生の橋渡し役となる
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SOAは、2018年に「This is MECENAT」に認定されてから、4年連続、認定されていますね。
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高木
「This is MECENAT」は、公益社団法人企業メセナ協議会が認定しているものです。企業のメセナ(芸術文化支援)活動を広く周知し、その社会的意義や存在感を示すことを目的として、毎年「これぞメセナ」という活動が選定されます。
評価していただいたのは、継続的に行っているからだと認識しています。また、2020年から始めたオンライン講座で、実際に技術研究所内を見学しているような施設紹介の映像を用意するなど、さまざまな工夫を行った点も評価いただきました。 -
林
認定していただいたことは光栄なことだと思っています。我々が持つ専門知識やノウハウ、人財を積極的に活用・展開していることが伝わった結果なのかもしれません。
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今後の予定を教えてください。
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林
コロナ禍によって対面だったSOAが、オンラインにせざるを得ない。これが一番悩ましいところですが、これからの時代、テクノロジーを上手く活用して学生の皆さんとつながって行くことも大切なことです。団体での講義や見学では難しかった一対一での対話も、オンラインでなら可能になります。
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高木
もしかすると学生の皆さんの方が、オンラインが当たり前の時代に育ってきているので、使い方も上手かもしれない。我々伝える側が、オンラインでは見えづらい相手の反応をどう把握するのかが課題です。
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林
技術研究所で行うのですから、新しいことを取り入れながらアカデミーの活動を続けて行くことが大切だと考えています。建設の現場でもロボットを活用した自動化施工やオンラインでの遠隔操作が増えていきます。今後、建設業がどう変わっていくか。未来の建設のあり方に視点を置いてSOAも取り組んで行かなければならないと思っています。
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高木
建設の技術がどこに向かうのかは、社会動向を見据えて開発に取り組んでいる建設会社が一番よくわかっていると思います。
大学や学校では学べない、これからの建設業の動きを、SOAが橋渡し役となって学生の皆さんにお伝えして行きたいと思います。 -
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ありがとうございました。
シミズ・オープン・アカデミー 2021 年度 夏休み高校生セミナー
2021年8月19日、20日の2日間にわたって「2021 年度 夏休み高校生セミナー」がオンライン形式で行われました。その1日目の様子を紹介します。
この日のテーマは、1時限目「清水建設 現在・未来」、2時限目「建物を支える建築技術の進化」、3時限目「建設業といきものはなし」。
1時間目では、高木健治室長が講師を務め、建設業界について解説するとともに清水建設が施工した代表的な建造物を紹介。また、技術研究所の施設を紹介するバーチャルツアーでは、実際に見学しているような仕立ての動画によって、各施設を知ることができました。続く2限目では、林章二上席研究員が、建築技術の変遷を有名な建物を例に出して解説。「コンクリートの強度は何tか?」といったクイズなども挟みながら、飽きさせない工夫も。最後の講義は、若手の加藤雄大研究員が、生態系保全の研究について説明。子どもの頃から生き物が好きだったという話から建設業界に入り生態系の研究に至るまでを、自己の体験をふんだんに交え語る講義は、親近感を覚える楽しいものでした。
参加者の声
- 建設を知らない人に寄り添ったわかりやすい説明で、自分の知らなかったことを沢山知ることができ、良い経験になりました。
- 中を見ることができなかった工事現場の様子が少しわかって面白かったです。特に、タワークレーンは、どうやって上に上がっていくのか、その仕組みを詳しく教えていただけて疑問が解決しました。
- 工事現場でロボットが活躍していたのには驚きました。特に、夜中に搬送作業をすることで、次の日には準備が完了しているという内容は、とても効率的ですごいと思いました。
- 清水建設だけでなく、建設業界全体のことを少し知ることができた気がしました。
- 国立代々木競技場のことが特に印象に残りました。建築、土木、造船の技術が合わさって、あのきれいな形を作っていると聞いて感動しました。建築だけの技術で建物が作られているわけではないということを学びました。
- 学校で建築を学んでいないので、いろいろなことが新鮮でした。災害を機に建物のつくりが変わったり、技術の発展と共に高く複雑な形の建物が作れるようになったりと、建設業界にも様々な転機があることを知ることができました。
- 建築学を学んでなくても建築に関わることができるということを知ることができました。また、建築は他の業界の人たちとの関わりがないとやっていけないものなのかもしれないとも思いました。
- なぜビルを建てるのに2,3年もの時間が必要なのか、施工工程を聞き理解できました。自分の知らなかったことを沢山知ることができ良い経験になりました。
- 授業でチームを組み橋の研究などをしていたので、ある程度の知識はありましたが、コンクリートの硬さや粗骨材度分布検出システム等の技術や、最新技術を使った3Dの構造図、データ、3Dプリンターなど驚くような技術がたくさんあり、建設は難しそうだけど面白いんだと思いました。私自身夢が建設業関連の仕事をしたいと考えていたので、貴重なお話を聞くことができて嬉しかったです。