当社は、内閣府の官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)の資金を活用した国土交通省の「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」を通じ、シャープ(株)と共同で三角測量の原理を応用した「3眼カメラ配筋検査システム」を開発しました。
このシステムは、今まで人の手でしか行えなかった配筋検査をデジタル化するために開発されたものです。3つのカメラとシステム制御ソフトから構成され、独自の画像解析アルゴリズムにより短時間で結果を表示させることができます。機材は簡単に持ち歩ける仕様になっており、一連の検査作業を1人1台で行えます。また、通信機器やサーバなどを介さずに帳票作成が可能です。
配筋の仕様、天気など異なる現場環境のもとで20現場以上、計40回以上の検証を行い、有効性が検証されています。その結果、国土交通省発注の東北中央自動車道 東根川橋上部工工事において、本システムが初めて採用されました。国交省の発注工事においてデジタル化された配筋検査システムが採用されたのは、当該工事が日本で初めてとなります。新思惟大橋上部工工事においても自主検査や段階確認に半年以上連続使用し、躯体構築を完了しました。
第23回 国土技術開発賞 入賞
令和2年度 土木学会賞 技術開発賞
令和3年度 日本建設機械施工大賞 最優秀賞
第41回 エンジニアリング功労者賞 中小規模プロジェクト枠
令和3年度 土木学会田中賞 かけはし賞
第4回 日本オープンイノベーション大賞 国土交通大臣賞
令和3年度 みちのく i-Construction 奨励賞
2023年 日本コンクリート工学会賞 技術賞
開発の目的
検査業務の精度維持と省人化・省力化が課題
配筋検査は、鉄筋コンクリート構造物の品質を保証する上で欠かせない品質管理業務のひとつです。これまでは、検査用具の準備、現場での設置、スケールを用いた計測、黒板記入、検尺ロッドやマグネットを設置した写真撮影、事務所での帳票作成を施工者3名、発注者監督員1名で行っていました。検査業務は構造物の規模にかかわらず、多くの手間と時間を要しており、検査結果の精度を保ちながら作業を効率化することが課題となっていました。
概要
3眼カメラによる検査方法
その課題に対する画期的なソリューションとなったのが、3眼カメラです。3眼カメラは重さ3kg、幅30cmの機材で、L字に配置された3つのカメラによって撮影します。
まず、L字の角に位置するカメラを基準の画像とし、縦方向、横方向に位置するカメラから撮影した画像と比較することでずれ量を計算します。その結果を元に三角測量の原理を応用して、対象物の縦・横・奥行の3次元情報を算出。次に制御ソフトが画像上の縦・横方向の鉄筋の太さや配筋の平均間隔、本数、重ね継手の長さ、かぶり(コンクリート厚)を計測し、約7秒で検査帳票を自動作成します。一度の撮影で検査できる範囲は1m四方ですが、複数の撮影結果を合成することで、広範囲の検査結果としてまとめることも可能です。
特徴
簡単な操作により1人1台で配筋検査が完結
従来の鉄筋検査に必要だった黒板や検尺ロッドをシステムの中に組み込むことで、3眼カメラ1台で完結するよう、徹底的な省人化を図っています。従来の黒板を電子黒板とすることで、あらかじめ入力したデータを表示します。検尺ロッドの代わりに電子ロッドを画面上に表示し、自由自在に指で動かせるようになっています。従来、事務所で行っていた帳票作成も現場で撮影ボタンを押すという簡単な作業だけで行えます。遠隔臨場(動画撮影用のウェアラブルカメラ等とWeb 会議システム等を利用した段階確認)にも対応可能です。
高精度な検査結果を提供
検査結果の精度は、雨天時や暗い場所であっても、鉄筋径で±1.0mm、配筋の平均間隔で±5mmと工事管理基準内に収まっており、二段配筋などの複雑な配筋検査にも対応できます。また、検査帳票は3枚の画像データを元に自動作成されているため、故意に手を加えることは極めて難しく、検査結果データや撮影画像が後から編集されたかどうかを判定できるように改ざん検知機能を有するため、非常に信頼性の高い検査結果を提供できます。
対象物までの距離がおよそ1m程度であれば、画像解析に影響はなく、斜め方向からの撮影にも対応できます。対象物から遠く離れて撮影し、画像から鉄筋を検出する精度が低くなった場合などは、画面上にアラート表示することで、再度撮影を促す仕組みになっています。
さらに、検査結果とCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の配筋図データを重ね合わせて色分け表示し、配筋の妥当性を見える化することも可能です。
現場への高い適用性
3眼カメラは付属のタブレットで計算するため、専用の通信機器や計算サーバなどが不要であり、現場導入がしやすいツールです。3眼カメラによって、安全な足場などからの検査を可能にしたことで、高所作業時間の大幅な削減につながり作業員の安全性が向上しました。また、非接触での検査が可能であることから新型コロナ対策にも貢献できます。構造物規模を問わず適用可能、操作が簡単で汎用性が高いことから、東根川工事において、日本で初めて発注者監督員の段階確認に採用されました。
今後の展望
東根川橋の実績が認められ、他の現場でも本システムの採用が決まっています。今後、インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション技術として、建設現場のイメージアップとともに、施工者、発注者双方における在宅勤務や遠隔臨場などの多様な働き方の実現を目指します。また、国内だけでなく、海外展開も視野に入れ、安全性の高い現場環境づくりに貢献します。