2024.12.09

開発者ストーリー

ACF工法®

冬の工事現場の働き方を変える コンクリート技術の開発者たち

建設に欠かせない構造材であるコンクリート。このコンクリートの現場での施工性を大きく改善する画期的な技術が開発されました。特に冬期の工事の時短に貢献し、現場の働き方改革に資するものです。この開発に携わった技術者に話を聞きました。

左から、技術研究所 建設基盤技術センター 主席研究員 黒田泰弘、革新材料グループ 主任研究員 浦野真次、デンカ株式会社 エラストマー・インフラソリューション部門 特殊混和材部 特混Sプロジェクト 相澤一裕氏
左から、技術研究所 建設基盤技術センター 主席研究員 黒田泰弘、革新材料グループ 主任研究員 浦野真次
デンカ株式会社 エラストマー・インフラソリューション部門 特殊混和材部 特混Sプロジェクト 相澤一裕氏

固まりにくい冬のコンクリートの問題

コンクリートは、セメントに水と砂利や砂などの骨材を混ぜ合わせた複合材料。セメントには水硬性という性質があり、時間が経つにつれ固まっていきます。この現象を凝結といいます。凝結には気温が大きく影響し、冬期には時間がかかるようになります。また凝結が遅れるほどブリーディングという浮き水が出て、品質に影響する場合もあります。

コンクリート施工の研究を活かし、プロジェクトをリードした浦野
コンクリート施工の研究を活かし、プロジェクトをリードした浦野

「凝結が進んで仕上げの作業ができるようになるまで現場の作業員が待機して、作業の終了時刻が遅くなり、残業や深夜業になってしまう、という状況を改善する必要がありました」

と話すのは、本プロジェクトを主導した浦野。土木工学を学んだ大学時代にコンクリート工学に興味を持ち、コンクリートの施工に関わる研究を重ねてきたという経歴の持ち主です。

凝結が遅れる問題の対処法として、凝結のスピードを早める液体の混和材はあったのですが、生コン工場で多くの量を添加する必要があり、現場への輸送中に凝結が始まらないような配慮が必要となるなど、コントロール性に課題がありました。

開発当時、革新材料グループを率いていた黒田
開発当時、革新材料グループを率いていた黒田

「昨今は生コン工場も減少傾向にあるうえ、工事現場も人里離れた場所ということも多く、液体の混和材を代替する解決策を模索していました」

と補足するのは、革新材料グループ長として浦野をサポートしていた黒田です。こうしたことから最初のコンセプトとして、現場での添加が容易な粉状の薬剤をターゲットに検討は進められました。

凝結スピードと施工性のバランスがポイント

開発に先立って、浦野らはデンカ株式会社に協力を依頼しました。

「デンカはコンクリート用混和材料に関するトップ企業の1つ。今回目標としていたコンクリートの凝結制御という点で、世界でも有数の技術力を備えています」(浦野)

セメント混和材のエキスパートとして開発に携わったデンカ・相澤氏
セメント混和材のエキスパートとして開発に携わった
デンカ・相澤氏

話し合いをしていく中で、天気や気候に左右されがちなコンクリートの凝結を現場でコントロールできる、これまでにない混和材を開発しようと意見がまとまったといいます。デンカの相澤氏は次のように話します。

「私はセメント混和材の開発に長く携わってきました。今回のプロジェクトは社会貢献、働き方改革に寄与するものだということで、高品質でハイグレードな製品を目指そうということで取り組みました」

こうして開発プロジェクトは2017年4月にスタートしました。混和材に求めていた性能は、凝結するスピードのコントロール性と施工性のバランスだと浦野は話します。

「生コン車へ混和材を投入した後は、ポンプ車による圧送・コンクリート打設後の締固め、という作業のしやすさは従来のまま、その後から凝結が進んでなるべく早く仕上げ工程に入れるようにするのが望ましいと考えます。そのため生コン車に混和材を投入してすぐ固まってしまうのではなく、凝結のタイミングを現場で調整できることを目指しました」

その結果、混和材を使用しない場合と比較して2〜4時間程度、凝結を早められるように、さらに気温や現場の状況に応じて投入量を調整することで、凝結のスピードをコントロールできるような基本仕様が決まりました。そうした要求性能を満たすための試作と実験は膨大な数にのぼったそうです。

現場で使いやすい投入法を模索

混和材そのものの開発と並行して、いかに現場で使いやすくするかの検討も進められました。当初、水溶性の紙袋で混和材を包装するというアイデアも試してみたところ、紙袋なので生コン車に投入する前に敗れてしまったり、紙が溶け残ったりしたため、不採用となったとのこと。

他にも送風機を利用した案なども試行してみたそうですが、投入時に大量の粉が舞い飛んでしまうことから却下となり、最終的にはセメント袋のような丈夫な袋で包装し、現場で生コン車に投入する方式が採用されました。

より多くのコンクリート材料に適合する改良品も登場

こうして2018年4月に凝結促進用混和材「ACF-W」が完成。同時にこれを用いた施工法は「ACF工法」と名付けられました。さらに2021年11月には「獨協医科大学日光医療センター」の建築構造部材への適用に先立ち、建築材料技術性能証明を取得。その後には「中泊くにうみウィンドファーム」の土木工事にも適用されています。

凝結促進用混和材「ACF-W」
凝結促進用混和材「ACF-W」

ちなみにACFは「アドバンストコンクリートフィニッシュ工法®」の略称ですが、「ACF-W」の「W」は冬(=Winter)を意味しています。

「冬の現場の課題解決のために開発した「ACF-W」ですが、さらに進化・深化させるため、2024年4月に改良品として「ACF-MU」を開発しました」(浦野)

「MU」はマルチ(Multi)を意味し、「ACF-W」より幅広い種類のコンクリート材料に凝結促進効果が発揮できるように仕上げられています。7月には「ACF-MU」を加えた建設材料技術性能証明を取得しています。

ACF工法を適用した「中泊くにうみウィンドファーム」工事長よりひとこと

東北支店 土木部 工事長(当時)石橋 均

コンクリート打設中に硬化が促進され、作業時間が短縮できました。打設後の片付け時間に左官仕上げが完了していたため、協力業者や当社職員の残業時間が減り、現場でも好評でした。
残業規制が厳しくなっている現在、仕上げ完了時間が遅くなる案件ではACF工法の適用を積極的に検討して欲しいと思います。

ACF工法の今後

冬の現場のコンクリート凝結問題に一定の解決を見出したACF工法。冬用として開発されただけに、夏用もあるのでしょうか。

「夏場には夏場の課題があります。1年を通じて凝結をコントロールできるようになれば、そうした課題解決につながるでしょう。そんなACF工法に進化させていきたいです」(浦野)

さらに意外な方面での活用も考えられているようです。

「床の表面仕上げを機械で行うと、人手よりも広い面積を早く仕上げることができるようになります。ただし仕上げのタイミングは凝結に依存するため、最初に打ち込んだ箇所と最後に打ち込んだ箇所を同じタイミングで仕上げることは困難です。最初に打ち込んだ箇所と最後に打ち込んだ箇所の凝結時間をACF工法で揃えることができれば、一度に機械で仕上げることが可能になります」(黒田)

今はまだ先進的な取り組みである機械化施工を普及させるためのアプリケーションのひとつとしてACF工法には可能性があるというのです。

すでにいくつかの現場に適用され、高評価を得ているACF工法。今後さらに進化を重ね、より多くの現場の困り事を解決していくことになるでしょう。