2023.04.03

開発者ストーリー

バイオ炭コンクリート

カーボンネガティブを実現する次世代コンクリートを生み出した技術者たち

地球温暖化をストップさせるべく、大気の温度を上昇させる温室効果ガス、中でもCO2を削減しようとする動きがさまざまな分野で進展しています。そんな取り組みのひとつとして新たな技術が生まれました。建物や構造物を作るコンクリートにバイオマスを炭化した「バイオ炭」を混ぜ合わせることで、炭素を貯留する環境配慮型コンクリートです。しかも既存技術とは異なり、いわば産業廃棄物を有効に活用するというコンセプト。この将来性に満ちたコンクリートを開発した技術者に話を聞きました。

左から技術研究所 社会システム技術センター インフラ技術グループ 山本 伸也、土木総本部 土木技術本部 基盤技術部 コンクリートグループ 幸田 圭司
左から、技術研究所 社会システム技術センター インフラ技術グループ 山本 伸也
土木総本部 土木技術本部 基盤技術部 コンクリートグループ 幸田 圭司

バイオ炭でCO2を固定

バイオ炭コンクリートに使用するのは木材加工の際に出るオガ粉を加熱圧縮成形し、一般的な炭のように釜で焼いて炭化させたもの。Jクレジット制度の算定式によれば、バイオ炭1kgにつき2.28kgのCO2固定効果(大気中の二酸化炭素を減らす効果)があるとされています。

そもそもコンクリートはセメントと水、砂や砂利などの骨材、さらに用途や目的に応じた薬剤が混ぜ合わさったものですが、そこにCO2固定効果のあるバイオ炭を混ぜるというアイディアは、開発を進めていくうちに、実に筋のいいものだったことが明らかになっていきます。

たとえば、既存の環境配慮型コンクリートは、高濃度のCO2を吸収させる環境など、特殊な設備を必要としたり、プレキャストコンクリートとして工場で製造・整形するなどの制約がありました。

その点、この技術は基本的にはコンクリート製造工場でバイオ炭を混ぜるだけ。さらにバイオ炭のもととなるオガ粉のようなバイオマスの入手も容易です。つまり、特殊な設備や材料による制約がなく、全国どこでも一般的なコンクリートと同様に製造・出荷できる汎用性とカーボンニュートラルへの可能性の両方を持ち合わせているのです。

使うほど大気中のCO2が減らせる

では、そのバイオ炭をどのような配合でコンクリートに混入すればいいのか。開発プロセスの大部分は、配合バランスの検討と膨大な実験によって占められました。

従来の普通ポルトランドセメント(Nセメント)と、NセメントよりCO2排出量の小さい高炉セメントB種やC種に、バイオ炭を1m3あたり15kg、30kg、60kgを混入。さらにそのバイオ炭も粉状と粒状のもので試験体を用意し、比較検討する実験です。

Nセメントを使用する一般的なコンクリートは1m3あたり約300kgほどのCO2を排出します。高炉セメントB種ではそれが40%、高炉セメントC種なら実に60%も削減できるとされています。ここにバイオ炭のCO2固定効果が追加されればカーボンニュートラル(コンクリート製造におけるCO2排出量収支が0)どころか、カーボンネガティブ(CO2排出量よりも吸収・除去量が多い状態)も視野に入ってきます。

「ラクツム」によるコンクリート3Dプリンティング技術においてロボットアーム制御を担当してきた山本
ラクツム」によるコンクリート3Dプリンティング技術においてロボットアーム制御を担当してきた山本

「CO2削減の目標値としては、カーボンニュートラルを大前提に、性能面ではフレッシュ性状、強度、耐久性に関する各種物性値を、普通コンクリートと同等以上とすることを目指しました」(山本)

特にバイオ炭を混入した場合のコンクリートの施工性を重視していたという幸田は次のように語ります。

建設現場で適用されるコンクリートに関して各種の技術検討を行ってきた幸田
建設現場で適用されるコンクリートに関して各種の技術検討を行ってきた幸田

「コンクリートにバイオ炭を混入すると、コンクリートの流動性や空気量が低下することがわかりました。これにより、コンクリートの施工性および品質が損なわれる懸念がありましたが、混和剤の種類や添加量を調整することによりその問題を解決できることを実験を通して確認できました」(幸田)

こうした実験の結果、コンクリート1m3あたり60~80kg程度のバイオ炭を混入すれば、施工性を確保しつつ、高いCO2排出量削減効果も得られることがわかりました。

「1m3あたり60kgといっても体積比では3~4%に過ぎません。それでも使用するセメントを高炉セメントB種や高炉セメントC種にすればカーボンネガティブが実現できます」(山本)

バイオ炭の威力は実に絶大だったというわけです。

性能とコストのベストバランスを求めて

2022年10月には実際の現場への適用として、現在工事中である東名高速川西工事の仮設道路にこのコンクリートを適用しています。

「1m360kgのバイオ炭コンクリートを34.5m3使い、一般的なコンクリートとまったく同じように施工できました。4.7tのCO2が固定できたと推計しています」(幸田)

このバイオ炭コンクリート、用途に応じた複数のメニューで展開していくことを検討しているとのこと。

「混ぜるバイオ炭が多いほどCO2固定量は増えるもののコストも上がります。そこで、一般的なコンクリートよりCO2排出量が減らせる、カーボンニュートラルにできる、カーボンネガティブが達成できるといったさまざまなバリエーションを用意して、用途に応じて選んでいただけるようにしていく考えです」(山本)

また、実験に用いたバイオ炭だけでなく、他のバイオ炭製品を比較検討してコストと性能のバランスをさらに突き詰めていくとのことで、プロジェクトはまだ続いていくようです。これからの展望を二人に聞いてみました。

「本開発は社会的な要望に出来るだけ早く応えられるよう、開発当初からスピード感を重視して取り組んできました。仮設構造物への適用までは実現することができたので、2023年度中には本設構造物への適用も実現できるようにしたいですね」(幸田)

「この技術は従来の環境配慮型コンクリートとは異なり、CO2貯留というコンセプトなのでそれを正しく伝えるのは難しいですね。いろいろなお客様に使っていただくためにも、わかりやすくお伝えする技術を磨いていきたいです」(山本)

左から山本、幸田

バイオ炭を混ぜる、ただそれだけのことでカーボンニュートラル、カーボンネガティブを実現するこの技術。次世代の標準的なコンクリートになるかもしれない、豊かな将来性を秘めています。