清水建設が強みを持つ分野に医療施設があります。単なる病院建設にとどまらず、事業計画の策定や運営ノウハウの提供など、多角的な支援を実施していることが強さの源泉です。
先頃、この分野に新たなソリューションが発表されました。それは病院内における医療用アイテムの物流を見える化し、その効率化を支援するもの。これを実現するのが院内物流動線計画支援システム「サプライくん」です。院内物流は病院の経営や運営に大きく影響しながら、これまであまり日が当たることのなかった領域。その効率化支援に、清水建設ならではの技術と知見が詰め込まれました。開発を担当した髙瀬大樹は人の動きを追求し続けてきたエキスパートです。
独自の技術とノウハウを融合
髙瀬が開発した「サプライくん」は、病院内の複雑で多様な物品の動き、搬送の実態を簡単な操作と設定で可視化し、その評価を通じて院内物流動線の効率化を支援するソリューションです。
清水建設は、東京都立多摩総合医療センター・小児総合医療センター整備等事業に参画するとともに、実際に病院運営に携わっており、膨大な運営ノウハウを蓄積しています。さらに、技術研究所では位置情報を活用して人の動きを解析する技術の研究・開発を進めていました。この両者を融合させ、病院経営の効率化に貢献するソリューションを検討したことが、「サプライくん」誕生のきっかけです。
「1年間のフィージビリティスタディを行い、さまざまなテーマを検討した中で、もっとも実現可能性が高かったのが『サプライくん』です」と話す髙瀬。彼は研究員でありながら医療福祉計画部という部署を兼務していた経歴があります。ここは医療分野のお客様を対象に、設計部門と営業部門を取り持ちつつ、病院の事業や運営を支援する役割を果たしており、病院運営に関するノウハウはこの部門に蓄積されていました。病院運営と技術研究所の技術の両方に精通した髙瀬は、まさに「サプライくん」の開発に最適な人材だったのです。
人の動きから建物を評価する
高瀬は学生時代から人の動きに興味を抱いていました。
「建物の設計は経験やセンスをベースに進めていく部分が少なくないのですが、もっとシステマティックに、理論立てて建物を計画・設計する方法がないかと考えていました。そこで、建物の中の人の行動を捉え、利用者の目線から建物を評価することで、使いやすい建物の計画や設計に役立てる方法について専門に学んできました」と話す髙瀬。
清水建設に入社してからは、鉄道の駅構内を移動する人の流動シミュレーションシステムの開発を手がけ、さらに「患者くん」というシステムの開発を担当しています。「患者くん」は新しく病院を作ったり、改築する際に、その病院の周辺にどれくらいの人が暮らし、潜在的な患者さんはどれくらいいるのかといった人の動き(動態)を、国勢調査などのオープンになっているデータを元に予測するシステム。病院の事業計画策定の根拠となるデータを提供する「患者くん」は現在も広く使われ、清水建設の強みである医療関連分野での実績を支える技術のひとつとなっています。
建物から街へ、賑わいの創出へ
「サプライくん」の開発は2段階で進められ、フェーズ1は図面を読み込み、あらかじめ設定された物流情報を用いた簡単な操作で、院内物流動線の搬送経路とその距離がすぐに得られるツールとして完成しました。そしてフェーズ2として、ビーコンを用いて実測した人の動きのデータを「サプライくん」に取り込み、より精度の高い分析結果を提供できるツールとして進化しています。
実際の運営に基づいた院内物流動線や移動距離を見える化することによって、病棟の使われ方や動線の課題などを定量的に把握することが可能になります。
「サプライくん」の考え方を応用して、新たに病棟看護師の行動データを利用した、病棟平面計画評価への活用も始めています。「そこで働く人、患者さんも含め、使う人に本当に使いやすい病院を作る、その根拠のひとつを提供するシステムとして、完成度を高めていきたいです」と意気込む髙瀬。
今後取り組んでみたいテーマを尋ねると、人の行動に対するフィールドを広げることだと即答しました。「今まで建物の使われ方をテーマにしてきましたが、もっと視野を広げ、街レベルで人の移動や行動をモデル化し、シミュレーションすることに取り組んでみたいですね。街の利便性向上や賑わいの創出など、役立てる分野はたくさんあると思います」
髙瀬の次なる研究開発が、楽しく快適に暮らせる街づくり、都市づくりに、さらには地方活性化などにも貢献する日が楽しみです。