多くの企業が、異業種企業やベンチャー企業などと協創し、イノベーションを起こそうとしています。今、そのための「場」となる「新しいコンセプトの空間創造」が注目されています。
大企業のイノベーション
2019年5月、JAグループ(農業協同組合)が新たな事業を創造する「オープンイノベーション」を実現する拠点、「AgVenture Lab(アグベンチャーラボ)」をオープンさせました。
目的は、第一次産業や地方が抱える社会的課題の解決につながるような、新たな価値を創出すること。その目的のため、スタートアップ企業やパートナー企業、大学、行政等と協創し、さまざまな知見やテクノロジーを活用しながら、新たな事業創出、サービス開発、社会課題の解消を目指しています。
「モノ」から「コト」への変化にあわせて体制も新しく構築
清水建設では、このラボの企画から関わりました。まず、“イノベーションを起こす空間”のコンセプトを練り上げ、そのためのPM(プロジェクトマネジメント)体制を構築しました。スタート時から設計・施工・情報など多様な専門家チームを編成し、有機的な組織で対応していきました。
この体制に求められるのは単なる進行管理ではなく、コンセプトを強く持ったリーダーシップです。そこで重要になったのは、物理的な材料仕様などの「モノ」ありきではなく、コンセプトとしての大切な「コト」を創造することでした。
「多様性と共にテーマ性をもったコミュニケーション」の場
イノベーションには、「知」の範囲を広げるため、多様な人々の参画が必要です。また、テーマ(目的)がなければこの「知」の深堀りは持続できません。これらを柔軟に促すような「多様性と共にテーマ性をもったコミュニケーション」の場を目指しました。
ラボには、#SECIモデルという、一橋大学大学院の野中郁次郎教授が提唱した、知識想像活動に注目したナレッジ・マネジメントのプロセスに対応させた場所や、社会学者マーク・S・グラノヴェターの「#弱いネットワーク(紐帯)」理論をイメージした柔らかなコミュニケーションを促す木製の大きな本棚間仕切りがあります。
これはテーマに沿ったモノや飾り付けをし易くするのと共に、空間を完全に仕切らず、メンバー同士が気配を感じられる仕掛けでもあります。周囲の声がなんとなく聞こえるので、会話のきっかけを作り出すのが狙いです。
こだわったポイントはここに集まる意味と必要性。会うことから生まれる、楽しく自由なテーマのあるコミュニケーションでした。そのためには、畳やリラックスできる音楽など安心できる居心地の良さも大事にしました。さらに、運用を考えると今後のメンテナンスも必要です。建設会社だから「モノ」を建てるだけで解決するのではなく、機能以外でも情感や感情も含めた良い体験の「場」を創造することが「鍵」だったのです。
ラボを象徴する「シンボルツリー」
モニュメントの本棚を、お客様が「ニュートン」と命名しました。この名が付くことで、モニュメントは発見のシンボルとなったそうです。
#SECIモデル、#弱いネットワーク理論に対応した「場」が!
ラボは、#SECIモデル、#弱いネットワーク理論をイメージしたさまざまなスケールでのワーク・コミュニケーションスペースを用意することにより、柔軟な活用を促し、時代と共に成長していけるような「場」を目指しています。