使っていない教室や機材はこまめに電源を落としているのに、なかなか電気代が減らせない。
多くの施設を持つ成蹊学園にとって、電力管理は大きな悩みのタネだった。
そんな学園が大規模な省エネを実現。電力の見える化と地道な努力の積み重ねが、成功の鍵となったのだ。
膨大なデータに見え隠れする、電力ドロボウの痕跡
目に見えない電力のムダを探せ
都内の好立地に広がるキャンパスに、小学校から大学まで約100棟もの施設を構える成蹊学園。その維持・運営には莫大な電力が必要なことはいうまでもない。これまでも電力使用量を抑えるために施設ごとに対策していたが、効果は今ひとつというジレンマに陥っていた。どうにかして効率的なエネルギー管理ができないものかと悩んでいたところ、手をあげたのが清水建設だった。
まず、全ての施設における30分ごとの電力使用量を1年間、毎日計測し、クラウドを活用したデータ収集を始めた。いわば、人間の血圧や脈拍などの生体データを全て計測するかのように、施設ごとの電力使用状況を見える化したのだ。しかし、それだけでは十分ではない。膨大なデータを読み解き、いかにして電力使用量を抑えるかを考えるのが本当の課題だ。そこで、全ての施設における電力使用量を示すグラフを4週間分重ね合わせ、電力消費の多い曜日や時間帯を割り出すという分析を行った。建物の使われ方を徹底的に探るエコ・プロファイリングで、電力ドロボウの尻尾をつかもうとしたのだ。
省エネの鍵は、真夏の5日間
分析によって、さまざまな、そして意外な事実が明らかになった。例えばある施設では、朝から晩まで電力使用量が一定のままであった。本来、夜間に学生はいないはずなのに、何故、電力使用量は変わらないのか。実際に現場に足を運んで調べてみると、夜間に稼働させる必要のない機材の電源がつけっぱなしになっていたことが判明。このようにグラフを一つひとつ読み解き、地道にムダをつぶしていった。
さらに、データ分析から電力使用量の特に多い4施設が明らかになるなど、電力ドロボウの全容がはっきりと見えてきた。これらの施設における電力消費量は気温と強い相関関係を示しており、夏のわずか5日間がピーク電力(1年間を通じての30分間の電力使用量の最大値)を押し上げていることまで突き止めた。電気の基本料金はピーク電力で決まる。そこで翌年は予想最高気温などのデータに基づいた制御を行ない、ピーク電力を抑制。契約電力を1割ほど削減することに成功した。
これらの事例により、ビッグデータを活用して学園の建物全てをトータルに管理することで、効果的な電力使用量の削減につながるという確かな手応えを得た。今後は全施設の電力をクラウド上で管理し、さらにガスを始めとした他のエネルギーと組み合わせて制御することで、契約電力を3割削減することさえ可能になると見込んでいる。
見つけ出した省エネの鍵、開かれた可能性のトビラ
電力ドロボウの追跡で得た予想外の収穫
電力使用量の分析と地道な対策によって、新たな可能性も見えてきた。現在は、「気温」や「施設利用のスケジュール」などと電力使用量を見比べることで対策を図っているが、今後は「施設ごとの空調効率」や「施設の利用者数」など、計測項目をさらに増やす予定だ。これにより、例えば授業が始まる30分前から空調を作動させて快適な学習環境を整える、教室内の人数に応じて室温調整をするなど、きめ細やかな制御も可能になる。
また、どの施設にどれだけの人数がいるかを常に把握できていれば、災害時にも避難誘導の優先順位が明確になる。施設の構造データと合わせれば、どの建物に避難誘導するのが安全かも一目瞭然だ。
成蹊学園では、この取組みを教育にも活かそうと考えている。持続可能な社会を実現するためには、いかにエネルギー削減を組織的、効率的に行っていくかを若い世代に教育していくことも必要だ。現在進行形の事例を学生にも公開することは、エネルギーマネジメントの現場を肌で体感させるまたとない機会となっている。
電力使用量の徹底的な分析は、効果的な省エネにとどまらず、快適な空間づくりや災害時の継続的な施設運営など、施設の魅力アップへと昇華されつつある。
電力ドロボウの追跡は、成蹊学園の新たな魅力を切り拓く鍵の発見という予想外の収穫につながりそうだ。