当社は、長周期地震動により生じる超高層ビルの複雑な揺れを抑制する屋上設置型の制振装置「シミズ・スイングマスダンパー(SMD)」を開発しました。
近い将来に発生が危惧されている「南海トラフ地震」や「相模トラフ地震」などの大規模地震に備え、超高層ビルでは長周期地震動対策が急がれています。屋上設置型の制振装置導入は有効な対策の一つですが、平面形状が正方形ではない超高層ビルの場合、長辺方向と短辺方向で異なる周期の揺れが生じるため、十分な制振効果を得るにはそれぞれの周期に対応する装置を設置する必要があります。しかし、屋上スペースには限りがある上、1台あたりの重さが数百トン規模となる装置をいくつも設置することは難しいのが現状です。
当社が開発したSMDは、揺れを回転運動に変換して大きな質量効果を発揮するダイナミックスクリューを内部に組み込むことで、1台の制振装置で異なる2つの周期の揺れを制御可能にすることにより、一般的な屋上設置型の制振装置に比べて、軽量化と省スペース化を実現しています。
今後、当社では、SMDによる頂部集中型制振はもちろん、すでに開発済みの低層集中型制振と組み合わせることで、お客様のニーズや建物の特性に合わせた最適な超高層ビルの地震対策をご提案します。
「シミズ・スイングマスダンパー」の概要
シミズ・スイングマスダンパー(SMD)は、鋼製あるいはコンクリート製の錘(おもり)※を鉄骨フレーム内の積層ゴム(2段構成)が支える構造となっており、内部にオイルダンパーおよびダイナミックスクリューが組み込まれています。 設置する台数は、建物規模によりますが、2~4台となります。
外形7×7m、重量400トン程度
1台の制振装置で周期の異なる2方向の揺れを抑制
屋上設置型の制振装置は、地震時に制振装置が同調し、錘が建物の揺れを打ち消す方向に動くことで制振効果を発揮します。しかし、平面形状が正方形ではない建物の場合、短辺方向と長辺方向では建物の揺れ方(固有周期)が異なるため、1方向の揺れにしか同調できない一般的な屋上設置型制振装置では、十分な制振効果を得ることができません。
SMDでは、ダイナミックスクリューの質量効果により短辺方向の積層ゴムの変形を抑制しながらゆっくり揺れて(長周期化)、建物の周期に同調させることで、周期が異なる2方向の揺れに対応する仕組みとなっています。
●一般的な屋上設置型制振装置とSMDの違い
●SMDの周期
ダイナミックスクリューを転用し、軽量化と省スペース化を実現
SMDの要となるのは、内部に組み込まれたダイナミックスクリューです。
大きな質量効果(回転慣性質量)を生みだす画期的ダンパーであるダイナミックスクリュー※は、低層集中型の制振装置として14件の適用実積があります。
SMDに組み込むダイナミックスクリューは、可動長さを±600㎜に拡大して転用しています。
カヤバシステムマシナリー(株)、日本精工(株)との共同開発。2012年に制振用として実用化。
SMDの長周期化
SMDでは、ダイナミックスクリューを用いることで、錘の質量を増すことなく制振装置の周期を制御して長周期化させ、軽量化と省スペース化を実現。屋上が狭いビルでも設置しやすくなっています。
低層集中型ダイナミックスクリューとのハイブリッドも可能
本装置は、ダイナミックスクリューによる低層集中型と組み合わせることが可能であり、新築、改修を問わずお客様のニーズや建物の特性に合わせた最適な超高層ビルの地震対策をご提案することができます。
適用事例
既存超高層ビルでは工事制約が多いため、屋上に大型制振装置を設置する「頂部集中型」は、工事箇所を少なくできます。また、従来の低層階に制振ダンバーを複数配置する「低層集中型」や屋上のスペースに応じて併用する「ハイブリッド型」も可能です。
加振実験とシミュレーションにより制振効果を確認
縮小モデルを用いた加振実験
SMDの開発にあたっては、当社技術研究所の大型振動台で縮小モデル(30トンの錘を搭載)を用いた加振実験を実施、1台の装置で周期の異なる2方向の揺れに対応できることを確認しています。
また、超高層ビルを模したモデル(30階建て、長辺方向固有周期3秒、短辺方向固有周期3.5秒)に、SMD(重量400トン×3台)を適用したシミュレーションでは、南海トラフ地震の模擬地震動に対して、長辺方向の揺れを52%、短辺方向の揺れを43%低減できました。この低減効果により、建物の構造体はもとより、天井や壁などの二次部材の被害も防止・軽減できる見込みです。