当社技術研究所内の都市型大規模ビオトープ「再生の杜」(東京都江東区)が、完成から10年を迎えました。
「再生の杜」は、都市部の生物多様性を高める技術を実証するために建設された、大規模ビオトープ(面積1,940m2)です。敷地内は、面積の3分の1を占める水辺域から陸地へ環境が徐々にうつり変わっているため、さまざまな生物にとって住みよい空間となっています。
当社は建設当初から10年にわたり、「再生の杜」内の植物や昆虫、鳥類、魚類などのモニタリングを続けています。その結果、絶滅危惧種を含めた多様な生物がビオトープ内に現れ、継続的に生育していることがわかりました。このことから、都市部の人工的な緑地が豊かな生物生息空間をつくりだし、生物多様性を向上させていることが実証されました。
都市部での調査は、中小規模のビオトープで短期間に行われたものがほとんどであったため、今回のモニタリングで得た成果や知見は非常に貴重なものとなっています。今後当社では、「再生の杜」で培ったビオトープ建設技術や維持管理技術を生かし、生物多様性に配慮した建設計画をご提案していきます。
インデックス
10年にわたるモニタリングの結果
「再生の杜」では、都市の自然生態系再生、資源再生・循環、生活環境再生という3つの「再生」をテーマに掲げ、さまざまな実証実験を行ってきました。また、自然生態系の再生という観点から、人の手をできるだけ入れずに環境を維持しています。
植物…絶滅危惧植物の保全と樹木の成長
現地発生土および造成工事で発生する表土を再利用し、植栽基盤に200種の在来植物を植栽しました。現在、表土からの出現、風や鳥による種子散布などによって、タヌキマメ、トチカガミ、タヌキモなど地域の絶滅危惧種を含め、296種まで増加しています。
植栽した樹木106種のうちコナラ、ミズキなど落葉広葉樹の成長がよく、10年で6〜10m成長しました。スダジイ、タブノキなど常緑広葉樹も4〜5m成長しています。都市域の人工的に造成された植栽基盤でも、若木から良好な樹林を形成することができました。
昆虫類…160種の生息を維持
建設当初から確認されていた約160種の繁殖や生息を維持しています。
また、池内では数種のヤゴが確認され、地域のトンボの供給源となっていると考えられます。
鳥類…13〜16種が継続的に飛来
水域の鳥類を中心とした13〜16種が継続的に飛来し、餌場や休憩所としてビオトープを利用しています。大型の水鳥コサギ、「渓流の宝石」カワセミなど、珍しい鳥類も「再生の杜」を訪れました。
廃タイヤを再利用した池内の浮島にはカルガモが毎年巣を作り、子育ての様子を見ることができます。
魚類…絶滅危惧種ミナミメダカが継続的に生育
放流した7種のうち絶滅危惧種ミナミメダカを含む4種が増加し、全体数は放流時の2.5倍となっています。
寿命が1〜2年であるミナミメダカが継続して生息していることから、「再生の杜」で世代交代が行われ、長期的な保全の場となっていることがわかりました。
「再生の杜」への導入技術
「再生の杜」は、生態系ネットワーク評価や自然景観シミュレーションなどの計画技術、多様な生物生息空間をつくりだすための敷地のゾーニングと施工技術、在来種を用いた埋土種子緑化など、当社のさまざまな技術を結集してつくられています。
生態系ネットワーク評価「UE-Net®」
緑化計画地と周辺緑地との生態系のつながりを分析
衛星画像データをもとに緑被地を抽出し、緑化計画地と周辺緑地との生態系のつながりを分析することで、誘致できる生物や創出する生息環境が計画できます。
「再生の杜」では、カワセミやカルガモ、チョウやトンボなどの誘致が計画され、周辺との生態ネットワークが予測通り形成されていることを実証しました。
ゾーニングによる多様な生物生息空間の創出
ビオトープを建設する敷地をゾーニングし、高低差(起伏)をつけ、植える植物を変えることで、コンパクトながらも多様な環境を創出することが可能です。
「再生の杜」では、水域、湿地、草地、雑木林、常緑樹林に植える植物を変化させ、多種多様な生物のすみかをつくり出しました。
自然景観シミュレーション「ビオナビ」
ビオトープの計画づくりの際、目的や用途によって環境要素を事例データベースから選定して構成、パソコン上で計画・表示します。これにより、完成後の景観イメージや四季の変化、経年変化などを三次元のイメージで検証することができます。
「埋土種子緑化技術」による地域風土に合わせた緑化
表面から深さ10cm位までの埋土種子含有層を利用
ビオトープ建設の際、地域の表土を用いることで、その中に埋まった種子(埋土種子)による緑化を行うことができます。
表土の中には、その土地に生育する植物の種子はもちろん、周辺の地域から風や動物により運ばれた種子など、地域固有の種子が多く堆積しています。市販の植物を植える既存の方法では、画一的で多様性のない緑化となりがちですが、「埋土種子」を用いることで、地域の気候風土・景観にあった多様性に富んだ緑化を早期に実現できます。