当社は、人間の脳の構造を情報処理システムとしてモデル化した「ニューラルネットワーク(神経回路網)」をビル空調の運転・制御に応用した画期的な空調制御システム「予測くん」を開発しました。
近年、ビル空調の省エネ対策として、安価な夜間電力を利用する蓄熱システムを採用する建物が増えています。効果的な省エネを行うには、翌日の空調負荷を高精度に予測し、かつ昼間の空調負荷の変化に対して、最適な熱源機器を選択し、タイミングよく運転・制御する必要があります。
「予測くん」は、日射量、外気温、在館人数などのデータを基に、翌日の空調負荷を誤差±3.5%以下という非常に高い精度で予測できます。また、昼間の空調負荷の変化に対しては、複数の熱源機器を運転制御し、空調負荷に追従するとともに、蓄熱を使い切る最適運転を実現し、エネルギーコストを低減します。
本システムを採用したカシオ計算機(株)八王子技術センターでは、約1年間にわたる運転の結果、ビル空調のランニングコストと二酸化炭素排出量を、従来に比べ約40%削減しましたが、その内の約10%は「予測くん」による効果であることが分かりました。今後は、事務所ビルや工場施設などの蓄熱空調に本格展開していきます。
●「予測くん」のメリット
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ニューラルネットワークをビル空調に応用した「予測くん」
「予測くん」は、ニューラルネットワーク予測システムを組み込んだパソコン、中央制御装置、入退出管理パソコンなどから構成されています。
ニューラルネットワークが作成した空調負荷予測データと最適運転計画データは、1日に2回(4:00と16:00)中央制御装置へ送信され、これを基に空調機器をコントロールする仕組みです。
また、予測と現実値の違いを基に、自己学習で予測精度を高めていく仕組みになっています。
■ニューラルネットワークモデル
本システムの最大の特長であるニューラルネットワークは、様々な情報とそれに対応する回答とを繰り返し与えることにより、入力と出力との間にネットワークを構築し、人間が得意とする認識や予測などの処理に威力を発揮します。
右図はニューラルネットワーク予測システムを単純化したモデル図です。入力層→中間層→出力層から成り立っています。本システムの場合、日射量、外気温、在館人数などの入力データを基に、24時間先までの空調負荷を高精度に30分単位で予測します。
■空調負荷予測(例)
空調の負荷予測について、従来の情報処理手法では、誤差範囲±5%が限界でしたが、本システムでは±3.5%以下に抑えることができます。
また、その結果を夜間の蓄熱量や運転計画に反映できるため、蓄熱や熱源運転が無駄なく行えます。
様々な省エネ技術と組み合わせ約4割の省エネを達成
「予測くん」を採用したカシオ計算機(株)八王子技術センターでは、他にも様々な省エネ技術が採用されています。
同センターでは、春や秋に自然の風による冷房を行う「自然換気システム」や、室内照度を一定にする「照明制御システム」などを活用することで、一般建物に比べて約4割の省エネを達成しています。
省エネルギーシステムの概要
■建物概要
構 造 |
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地上7階、搭屋1階 |
延べ床面積 |
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23,200m2 |
冷水蓄熱槽 |
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570m3 |
■開発者からの一言
空調負荷の予測は、蓄熱式空調システムの効率的運転に無くてはならないものです。
10年以上も前ですが、空調負荷の予測精度を競う「コンペ」が日・米の学会で行われ、ニューラルネットワーク手法を使って参加したところ、共に好成績を得ました。その後、この技術が使えるようになるまで、制御用コンピュータの発展を待つ必要がありましたが、カシオ計算機技術開発センターでの実証によって省エネ省コストに貢献でき大変うれしく思っています。
既に、他の3案件にも導入が決まり、「予測くん」が日本各地で活躍してくれるものと期待しています。