近年、都市部におけるインフラの整備に、地下40~50m以深の大深度地下を利用するケースが増加しています。しかし、大深度地下の開発には、地上に比べて、より時間とコストを必要とし、周辺環境への影響も考慮する必要があります。
当社は、大深度地下工事を「より速く」「より経済的」に施工するために、さまざまな技術を開発しています。今回の特集では、大口径・大深度の立坑を短工期で構築できる「アーバン・メカ・シャフト工法」と、大深度大断面道路トンネルを短工期で部分拡幅できる「セグ・ジェット(Seg-Jet)工法」をご紹介します。
いずれの技術も、従来工法と比べて、工期の短縮はもちろん、施工コストも削減でき、都市部を中心とする大深度地下の開発に極めて有効な技術です。
また、大深度地下利用以外にも、都市部の交通インフラ再生を支える技術について、あわせてご紹介します。
大深度立坑を従来の半分の工期で施工する「アーバン・メカ・シャフト工法」
主にシールドトンネル工事の発進立坑や地下道路トンネルの換気口などを、地層の硬さに影響されることなく従来工法よりも速く施工できる工法です。
この工法は、立坑の先端を掘削する「水中駆動掘削システム」と、躯体となる鋼製リングを地上から圧入する「リング圧入システム」の二つで構成されます。
▼水中駆動掘削システム
- 立坑内に掘削駆動部を配置し、地下水位下の地中において回転式拡縮カッタにより地山を掘削するシステムです。
- 土丹層などの硬い地盤ではカッタを拡げ、圧入リング先端の刃口下方を掘削し、容易に鋼製リングを圧入させることができます。
- 掘削土などは掘削部の中央に集積され、バケットで地上に排出するシステムも採用しています。
▼リング圧入システム
- 躯体となる鋼製リングを地上で組み立て、油圧ジャッキにより、掘削に合わせて地上から圧入するシステムです。
- 掘削中の残土などは掘削機の中央部からバケットで排出されるため、地上での鋼製リング組み立ての支障にならず、掘削と同時に鋼製リング組み立てが可能となります。
■特徴とメリット
- 従来工法※1の半分の工期で立坑を構築できます。
- 地上設備がコンパクトなため、必要最小限のスペースしか必要ありません。
- 振動および騒音についても周辺への影響を極力抑えた施工が可能です。
- 施工コストは従来工法※2と同等以下です。
直径約10m×深さ約60mの立坑を、RCケーソンと補助工法で掘削した場合(工期実働約580日)
本工法の基幹技術である水中駆動掘削システムの性能を確認するために、掘削径が4.8mの拡縮カッタを試作し、硬質地盤である土丹層および軟岩を模擬的に製作し、実際に深度13mまで水中で掘削するなど、当工法の性能の有効性を確認・実証しました。
短工期で部分拡幅できる「セグ・ジェット(Seg-Jet)工法」
大深度大断面道路トンネル築造時に「非常駐車帯」や「分岐合流部」などを、地盤改良を行わず、また拡幅機能を持ったシールド機を使わずに短工期で部分拡幅できる工法です。
■施工手順
- 「多噴射切削システム」でセグメント外側の地山を切削しながら、「ジャッキシステム」により、セグメントの脇腹の方向を一定にして押し出します。
- 切削中は「地山安定管理システム」により、排泥量などを制御して地山の変位を最小限に抑えます。押出し中は「耐高水圧シール機構」により、高水圧でも坑内への漏水はありません。
- 所定量の押し出し完了後、押し出したセグメントを周囲のセグメントとボルトで固定し、裏込め注入を行い拡幅が完了します。
- これらの一連の拡幅作業は、シールド機の後続設備通過後に行うため、本線シールド機の掘進作業と並行して行えます。
■特徴とメリット
- 機械化したシステムで拡幅するため、従来の地盤改良工法に比べ経済的で、しかも工期を短縮できます。
- トンネル本線の掘進作業と並行して拡幅作業を行うため、拡幅機能を持ったシールド機を使う工法に比べ、工期を短縮できます。
- 「多噴射切削システム」による限定した範囲の切削、セグメントを切削しながら押し出すこと、及び「地山安定管理システム」により、セグメント押し出し時の地盤変状を最小限に抑えることができます。
- 切削した地山の泥水処理に本線トンネル掘削用の運搬・処理設備を利用できるため経済的です。
スピーディーな都市インフラの整備に役立つ各種技術 |
都市インフラの再生に関わる工事では、狭い敷地で、周辺環境に影響を与えることなく、短期間に施工することが強く求められます。以下にご紹介します「イー・エス・ジェー(ES-J)工法」と「エスシー・ブレック(SC-Brec)工法」は、それぞれ適用される工事は異なりますが、いずれも工期を短縮し、周辺環境への影響を最小限に抑える工夫がなされています。
■「イー・エス・ジェー(ES-J)工法」
地下大断面道路トンネルの分岐合流部を、地上から開削することなく築造することができる工法です。
大断面道路トンネルの本線用シールドの拡幅技術と、本線用シールドと出入ランプ用シールドとの接合技術から構成されています。
地上の道路交通や環境に与える影響が少なく、さらに地上の工事用地を必要としないなど、都市インフラの整備に適したさまざまな特長を持ちます。
■「エスシー・ブレック(SC-Brec)工法」
道路交差点部の立体交差を小規模な設備・小さなスペースでコンパクトに施工できる工法です。
オーバーパスによる立体交差の施工において、大規模な設備及び作業空間を必要としないため、交通への影響を最小限におさえることができます。
アプローチ部や橋脚・上部工等の主要な部材をプレキャスト化することにより、短期間での施工が可能です(従来工法と比較して約3分の1に短縮)。
▼施工手順
▼特徴とメリット
- 現地での作業が少なく、作業空間を車道中央の2車線分に限定できコンパクトな施工が可能で、交通への影響を最小限に抑えることができます。
- 架設作業は汎用のクレーン車を使用し簡単に行えます。このため、橋梁部の施工の際、15分以内の一時的な通行止めを数回行うだけで架設が可能です。
- 盛土に軽量のEPS製(発泡スチロール)ブロックを独自採用したことにより、軟弱地盤において地盤改良や基礎杭の施工が不要となります。
- 一般車用の立体交差※を想定すると、従来工法と比較して工期は約3分の1となり、工費は約8%削減することができます。
道路幅員:7.5m(2車線)、地盤:沖積シルト層などの軟弱地盤(従来工法のアプローチ部は支持杭あり)