このほど、トップとして技術研究所を率いることになった掛川秀史所長。舵取り役として技術研究所をどこに導こうとしているのか、新所長としての抱負からプライベートなことまで、一問一答形式でお聞きしました。
掛川秀史(かけがわ しゅうじ)
1965年 愛知県生まれ。名古屋大学大学院工学研究科建築学専攻修了。専門は火災安全。博士(工学)。1990年 清水建設に入社。技術研究所主任研究員、経営管理部主査、技術研究所環境エネルギー技術センター所長、同建設基盤技術センター所長、同副所長を経て、2021年4月、技術研究所所長に就任。
社会ニーズに応えられる研究所を目指して
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まず最初にこれからの技術研究所のあり方について、お聞かせください。
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掛川
今は社会環境が大きく変わっている時代です。新型コロナウイルスへの対応を始め、CO2削減や激甚化する災害への対応、持続可能社会の追求、少子高齢化といったさまざまな課題があり、お客様の価値観も大きく多様化しています。それに伴い、建設会社の研究所に求められる役割も変わってきていると認識しています。
かつては建築・土木の研究開発が中心でしたが、今はロボットやAI、再生医療など、建築・土木の専門技術だけでは社会ニーズ、お客様ニーズにお応えできなくなっています。そうした多様なニーズに技術力でお応えし、新しいものを作り出すことで、社会に信頼される研究所を作っていきたいと考えています。 -
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そのためにはどのようなことが必要になるとお考えですか。
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掛川
幹部クラスの社員だけでなく、研究員全員が「社会で今、何が求められているのか」を意識して仕事をすることが必要でしょう。自分の専門分野だけでなく、その周辺を含めて常にアンテナを張りめぐらせ、何が求められているのかを感じられるように、ボトムアップしていきたいと考えています。
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ボトムアップというのはハードルが高いように感じられます。
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掛川
確かに全員がポテンシャルアップしていくのは難しいかもしれません。特に研究開発の仕事は各自が個性を生かして仕事を進めていく局面が多いものです。ですが、センター、グループといった単位で社会ニーズに向き合っていければ、高いハードルも超えていけると信じています。
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リーダーシップとはどうあるべきとお考えか、お聞かせください。
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掛川
リーダーシップの働かせ方は人によって異なると思います。大きな方針を示してついてこいという人もいれば、全員の意向を聞きながらボトムアップしていく方向性もあるでしょう。私は後者でありたいと考えています。みんなの意見を聞きながら、目指すべき方向に一緒に向かっていければいいなと思います。
夜中まで実験に取り組んだ研究員時代
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ここからはご自身のことをお聞きします。子どもの頃から建築分野を目指しておられたのですか。
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掛川
父が内装工事の会社を、親戚が木材加工会社を経営していたということもあり、幼い頃から建築は身近にありました。小学校の頃には将来の希望は大工と書いた記憶があります。でも、中高と進むにつれ、興味・関心は別のものになっていきましたね。実際、大学も第一志望は電気・電子、無線工学だったのですが、気づいたら建築分野に進むことになっていました。
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大学時代の専攻をお聞かせください。
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掛川
火災安全です。でも、もともとこの分野に興味があったわけではなく、指導教官がとてもユニークな人で、その人柄に惹かれて選んだ先が火災安全でした。教官は当時まだ30代で、建築だけでなく、その周辺を含め、何が今後の社会の課題になるのかということを、ご自身で作られたプリントをベースに話してくださる方でした。
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入社されてから取り組まれた研究についてお聞かせください。
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掛川
技術研究所に入所し、やはり火災安全をテーマとした研究開発を40代前半まで手がけていました。特に30代前半頃まで行っていたのが建物内の煙の制御です。新しいシステムを開発して、現場に適用するためには実証実験が必要になるのですが、建設途中の建物で実施するため、実験室のように条件が整うわけではなく、夜中まで実験することも多くありました。
のちに開発された技術「火災フェイズ管理型防災システム」はページ下部の関連リンクで紹介
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ターニングポイントになった仕事はどのようなものでしたか。
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掛川
ターニングポイントになったと思うのは、本社で仕事をしたことでしょうか。研究は自分が努力すればそれなりに成果に反映されるものですが、経営管理部の仕事はいろいろな部署の人たちと調整しながら進めていくもので、自分が努力しても思い通りにならないこともありました。そうした経験を経て、仕事との向き合い方を見直すきっかけになりましたし、会社という組織全体に目を向けられるようになったとも思います。
それぞれの夢が社会課題の解決につながるように
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仕事をしていくうえで大事にされているのはどのようなことですか。
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掛川
仕事には締切をはじめとするさまざまな制約がついてまわるものです。思い通りにいかないことも多々あります。それでも自分で納得できるか、ウソはないかということを自分自身でチェックする姿勢が大事だと思っています。
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読書が趣味だそうですが、最近はどのような本を読まれましたか。
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掛川
最近では伊藤亜紗さんという美学者が書かれた「手の倫理」という本を読みました。手を介して人と人がつながることの意義や重要性を語った本です。コロナの時代になってそれができにくい状況になっていることを鑑みれば、非常に示唆に富んだ内容だなと思いました。それから精神科医の帚木蓬生さんの「ネガティブ・ケイパビリティ」という本も印象に残っています。容易に解の得られない課題に対してどう向き合うべきなのかということを語った本です。性急に結論を出そうとしないという心構えは、自分の仕事にも絡めて心に留めておきたいと思いました。
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座右の銘を教えてください。
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掛川
「雲外蒼天」という言葉です。雲を突き抜けたその先に、青空が広がっているという意味で、努力して困難を乗り越えれば、そこに青い空があるという励ましの言葉です。入社して数年くらい経った頃、仕事の優先順位をつけられずに先が見えなくなった時期がありまして、そんな時に知った言葉で、それ以降意識するようになりました。
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最後にあらためて、どんな技術研究所にしていきたいか、お考えをお聞かせください。
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掛川
これは外部の方にも言われることですが、清水建設の技術研究所は、研究員が自由にやりたいことができる環境だということです。今後も、各研究員それぞれが夢を追求できる場であり、その夢がさまざまな課題の解決に貢献できる技術として結実する場であればと思います。