清水建設株式会社 土木総本部 土木技術本部長
河田 孝志
1955年 岡山県生まれ。1978年 岡山大学工学部土木工学科卒業。修士課程を経て、1980年 清水建設に入社。北海道を皮切りに四国、東京、北陸で8本の山岳トンネル工事、インドネシアの地下発電所工事に従事、2006年 土木技術本部副本部長、2011年 マレーシア パハン・セランゴール導水トンネル建設所長を経て、2014年より現職。執行役員。現在、日本建設業連合会インフラ再生委員会再生戦略部会部会長、日本トンネル技術協会理事などを兼任。
魅力ある建設業への回帰
建設業は、社会資本の整備に携わり、安全・安心な社会を実現するという重要な役割を担っています。しかし、今後の人口減少や高齢化に伴う建設業就業者の減少により、こうした役割が十分に果たせなくなることが危惧されています。
こうした背景のもと、国土交通省は2015年12月に「i-Construction委員会」を設置。委員会報告書(2016年4月)の提案に沿い、生産性が高く魅力的な新しい建設現場を創出することを目的として、2017年1月に国土交通省の主導でi-Construction推進コンソーシアムが設立され(当社の宮本洋一会長が同コンソーシアムの副会長に就任)、さまざまな分野の産・官・学から618もの企業・団体(2017年3月1日現在)が参加しています。
生産性向上が課題
人口減少が見込まれる中、建設業では技能労働者約343万人(2014年度)のうち、10年以内に約128万人の大量離職が予測されています。日建連では、女性を含めた90万人の新規入職者の確保と35万人相当の省人化を図るべく、生産性向上や労働環境改善の取り組みを始めています。
また昨年政府が開催し、当社の宮本会長が出席した「未来投資会議」では、建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させる方針が表明され、生産性向上は喫緊の課題となっています。
i-Constructionで現場を変える
i-Constructionとは、(1)ICTの全面的な活用、(2)規格の標準化、(3)施工時期の平準化、など生産性向上に向けた取り組みの総称です。
例えば2012年の国土交通省の発注工事実績の内訳によると、土工やコンクリート工の技能労働者数は全体の約4割を占めています。一方、生産性に目を向けると、約50年間で生産性が飛躍的に向上したトンネル工事に比べ、土工やコンクリート工の生産性は横ばいであり、大きな改善が求められています。
現状コンクリート工では、現場で鉄筋や型枠を組み、コンクリートを打設する従来の方法が8割以上を占めていますが、そうした中で施工者は鉄筋継手の機械化や流動性の優れたコンクリートの使用など、従来の施工方法における工夫を行っています。国は生産性をさらに高めるため、部材のサイズを規格化し、プレキャスト化を進めるなどの検討も始めています。
建設業の大きな武器
当社は、建設現場へのロボットテクノロジー採用にもいち早く着目、人間の右腕の機能をスケールアップしてロボット化した「配筋アシストロボ」を開発した
i-Constructionの大きな目的は、個々人に蓄積される経験値や技能をデータ化し、誰もが熟練工のような仕事ができるようにサポートして、生産性を向上させることにあります。また、高品質化や安全性向上にもつながり、建設業を大きく変える可能性があります。
生産性向上により労働条件が改善すれば、建設業の魅力が向上し、若年層や女性を含めた優秀な人材が集まります。その意味でも、ICTは今後の建設業にとって大きな武器だと思います。さらに、政府主導のインフラシステムの輸出戦略にもICTは有効です。
当社が進めるICT
当社でも、ICTを活用した技術開発を進めています。
コンクリート工では、ノウハウが必要とされるバイブレータのかけ方と、打設したコンクリートの締め固め度合いとの相関性を評価しています。バイブレータが不適切に使用されると機械が注意喚起を促すなど、将来的には機械にチェック機能を持たせ、品質向上につなげたいと思っています。
シールド工では、土の硬さに合わせてシールドの回転速度を変更するなどの熟練オペレータのノウハウを、データベース化しています。将来は、適切なシールドの掘進管理を熟練工でなくてもできるようにしたいと思っています。
トンネル工では、トンネル内での機械への巻き込まれ事故をなくすため、作業員と機械の動きをデータとして蓄積して事故との相関性を分析し、問題点を明らかにしようとしています。
モデル現場を増やし全国展開へ
生産性向上を加速するには、さまざまな技術を現場で採用し、モデル現場を増やすことが重要です。プレキャスト化など初期投資が高い傾向にあるものは、施工者がコスト削減に向けた努力を続けつつ、工期が短縮され供用が早くなった、工場生産で部材の品質が安定・向上し構造物の長寿命化につながったなどのメリットを発注者に理解してもらう努力も重要です。また、設計段階からICTの活用を発注者と施工者が一緒に検討できる仕組みづくりも不可欠と考えています。
i-Constructionがもたらす安全・安心な社会
i-Construction推進コンソーシアムには、当社も現場でのICT化事例をベースに、ニーズとシーズのマッチングやそれを活かせる仕組みづくり、モデル事業などに参画していく予定です。
i-Constructionの推進により、建設事業の各プロセスにおいて、3次元データのオープン化/共有化、ロボット・AIの開発や現場のIoT化が飛躍的に進展し、建設現場の生産性/魅力が向上することは間違いありません。日本の未来のために、この取り組みは進めていかなければなりません。今はまさにそのための転換期であると思います。
本ページに記載されている情報やPDFは清水建設技術PR誌「テクノアイ12号」から転載したものであり、内容はすべて発行当時のものです。