清水建設株式会社 建築総本部 設計本部 副本部長
中村 和人
1982年 東京大学大学院工学系研究科建築学専門過程修了、同年清水建設株式会社入社。設備環境開発グループ長、設備設計部長を経て、2010年より現職。執行役員。
ZEBは省エネと快適さを両立するもの
省エネは我慢と隣合わせ、と感じている人も多いのではないでしょうか。例えば、室温を28℃に設定して、クールビズを推進しても、動けば汗が噴き出してくる。これでは仕事の効率も落ち、不快を感じてしまうことでしょう。我慢の省エネは長続きしません。
昨今、建築物の省エネルギー化に関して注目されている「ZEB(Zero Energy Building)」は、地球温暖化が進む中、持続可能な社会の実現に向けて、建物内のエネルギー消費をゼロに近づける取り組みです。これまで以上の省エネを実現しながら、我慢のない快適な空間をつくることが、ZEBの本分です。(ZEBの定義は図1参照)
重要な役割を担う建設業
2016年4月、建築物省エネルギー法が施行され、エネルギー消費量や温室効果ガス排出量の削減を目的に、建築物のZEB化政策も推進されています。
また政府は、2030年度までの温室効果ガス排出量を2013年度比で26%削減するとの目標を、国連気候変動枠組条約締結国会議(COP21)に提出しました。その中で政府は、ビルや住宅などの建築物におけるエネルギー消費に関わる「業務その他部門」と「家庭部門」の温室効果ガス排出量を、それぞれ2030年度に2013年度比で約40%削減することを目標としています。
2014年4月に閣議決定したエネルギー基本計画では、2020年までに新築公共建築物でZEBを実現、2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現すると示されています。
国内唯一・国内初の実績
そうした現状に先駆けて、これまで当社は、ZEB実現のために徹底した省エネルギーと新たな創エネルギーに積極的に取り組んできました。
2003年に竣工した当社技術研究所本館では、1990年度比で温室効果ガス排出量43%削減を実現しました。
2012年に竣工した当社本社は、輻射空調システムなどさまざまな省エネルギー技術のほか、太陽光発電パネルなどの創エネルギー技術を導入した都市型超環境オフィスビルであり、当社が海外CDM(クリーン開発メカニズム)事業を通じて獲得した温室効果ガス排出権を使用するとことで、高層ビルとしては国内唯一のカーボン・ニュートラル※認証を受けています。
当社の設計施工により2013年に竣工した生長の家「森の中のオフィス」では、徹底した省エネルギー技術に加え、太陽光発電・バイオマス発電などの再生可能エネルギーを積極的に活用し、スマートグリッド技術の実績を生かして、国内で初めて低層建築物でZEB化を実現しました。
2014年度には、建築物内で生成するエネルギーが消費量を上回る建築物(PEB:Positive Energy Building)も、実運用建築物としては国内で初めて実現しています。
事業活動などから排出される温室効果ガス排出総量の全部を他の場所での排出削減・吸収量でオフセット(埋め合わせ)する取り組み
省エネ基準に対し高いレベルで適合していく
ZEBの達成には、省エネルギー対策と再生可能エネルギーの利用が鍵となります。建築物省エネルギー法では、延床面積2,000m2以上の非住宅建築物については2017年4月から確認申請時に同法への適合が求められることになります。
当社設計施工の新築建築物は、現時点での高断熱・高気密、日射遮蔽、自然通風・採光の活用、高効率設備の導入などでほぼすべてが適合していますが、今後基準が厳しくなることが予想されており、さらなる技術開発に取り組んでいく予定です。
また再生可能エネルギーについては、長年培ってきたマイクログリッド(MG)やスマートグリッド(SG)技術を核として、大きな比率を占めている太陽光発電に加え、風力、地熱、地中熱、バイオマスなどを組み合わせるとともに、水素など新たな技術も確立していく予定です。
容易に建築物のZEB化を実現するために
当社設計施工の建築物では現在、基準値より平均で約20%の省エネルギーを達成しています。今後さらに目標値を上げ、2016年度は25%、2020年度には50%の省エネを達成できるように取り組んでいきます(当社のZEBへの取り組みロードマップは図2参照)。
その取り組みの中で、容易に建築物のZEB化を実現できるよう、まずは中層建築物におけるZEB化を進めていきたいと考えています。
また新たな市場として、地方中核都市でのZEB化、膨大なストックである既存建築物のZEB改修は、効果の高さやすそ野を広げる側面からも促進することが重要です。同時に当社保有施設でもZEB化を実現し、業界のリーディングカンパニーとして社会にモデルを示していきます。
本ページに記載されている情報やPDFは清水建設技術PR誌「テクノアイ11号(2016年10月発行)」から転載したものであり、内容はすべて発行当時のものです。