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環境対策の“引き出し”を増やそう

環境は、まず人づくりから。

少子化や高齢化など、日本の抱えるさまざまなテーマについて、多くのメディアや各種の審議会などで多彩な活躍をされている東洋大学の白石真澄教授。建築科出身でもある教授に、街づくりや、建設と環境の問題など、幅広くうかがいました。

東洋大学経済学部 社会経済システム学科 教授
白石 真澄氏

1958年大阪市生まれ。1987年関西大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。同年、(株)西武百貨店に入社。主に店舗開発に従事。1990年(株)ニッセイ基礎研究所に入社。社会研究部門の主任研究員として、少子・高齢化、バリアフリーを中心に、調査・研究に取り組む。2002年から東洋大学経済学部社会経済システム学科助教授、2006年より教授に就任、現在に至る。公職として、規制改革・民間開放推進会議委員、構造改革特区推進本部評価委員、少子化社会対策検討会委員(いずれも内閣府)、社会資本整備審議会および交通政策審議会(いずれも国土交通省)を務める。

しっとりとした街が好き

建築科ご出身ですが、最近、都市や街にどのような関心をお持ちですか?

学生時代、研究室でのテーマはバリアフリーだったんです。まだ今ほど社会的な関心は高くない時代でしたが。当時、老人ホームなども訪問し、人間の生活の質には空間の左右するものが大きいことを痛感しました。それが高齢化社会の問題という、私のライフワークにもつながりました。

街について言うと、一つには治安問題が気になっていますね。安全性が低下しつつあるように感じています。と言って、ただ街灯を増やすとか、整然とした街並みにするだけではダメだと思います。街には、多少猥雑なところもあって、人はホッとできる。そうなると街の安全性を保つには、不足している部分を補う仕組みが必要で、それには地域の人と人のつながり、コミュニテイが大切です。

もう一つは、ため息の出るような美しい風景が少しずつ減ってきてはいないか、ということです。人によって感じ方が違うかも知れませんが、無秩序な看板や、超高層ビルの乱立などが気になりますね。

私自身としては、しっとりとした風情を感じる街、京都やパリのような街が好きですね。

子供たちには体系立てた環境教育が必要

環境問題については、日ごろはどのようにお考えでしょうか。

私は環境問題に社会全体が取り組んでいく基本は、人づくりにあると思っています。行動できる人を育てていかねばならない。それには家庭で子供にどう環境問題を教えていくか、基本は家庭にあるのでは。蛇口を捻ればきれいな水が出てくる。その大切さをどこまで教えているか。私は母親でありますから、食の安全にも関心があります。そうしたことなども含めてですね。もっとも私自身、自分の子供たちがどこまで分かってくれているか、疑問ですが(笑)。

ただ、例えば小学生が学校で学ぶ環境問題は、「花や動物を大切に」といったミクロのことになりがちです。子供たちに土壌、水、大気といったマクロ的な問題を体系立てて教えていく事ができていないと思います。地球上の六十億人を一〇〇人の村に置き換えてみたら資源はどう使われているのか、安全な水を飲めない人はどれだけいるのか、そんな視点ですね。

今の子供たちは飢餓体験もないし、長時間の停電すらほとんど経験がない。ですから、そうしたことをきちんとイマジネーションさせる教育が必要です。それには学校の先生や文部省に頼るだけではなく、例えば科学系の実務者のベテランの方などにも協力してもらえばいいと思うんです。

建設も社会システムとしての視点が大切

建設業と環境問題の関わりについては、どのようにご覧になっていますか。

建設の仕事は、安全安心な水や電気を家庭に届けたり、街を造ったりしているわけですが、そうした有難さというのは、普段はなかなか感じないものです。建設の役割についてのPRが、一般の方には届いていないように見えますね。

私がいる学科は、社会経済システム学科というのですが、建設も社会システムとしての視点が大切になっていると思います。これまではどうも「建築」や「土木」といった学問体系の縦割り意識が強すぎたのではないでしょうか。

例えば「建築とエネルギー」といった具合に、社会のシステムとしての建築、環境との調和といった考え方です。病院を設計するにも、患者の心理や看護学、人間工学などの知識が必要ですよね。横軸から多様な価値観を交えていく発想です。

環境問題では、建設廃棄物のリサイクルはずいぶん進んでいるようですが、産業廃棄物全体の中ではまだ二割を占めています。ぜひもっと減らしてほしいですね。建物を解体したコンクリートなども、リサイクルを進めるべきだと思います。

もし、一〇〇年先まで持つ建物が造られれば、廃棄物も減るし、オペレーションをうまくしてエネルギー使用量も減らせればいいですよね。省エネ法の改正によって、オフィスも工場なみのエネルギー管理が求められてきますから、オペレーションは特に大事だと思います。

併せてエネルギーで言えば、コジェネレーションとか、発電施設の廃熱再利用技術なども開発されているようですから、それらも活用していく事が大切なのでしょう。

それと東京都は屋上緑化を進めていますが、緑が多いと環境だけでなく、働く人の潤いにもなりますし、生産性もあがると思っています。そうしたことにも努力していただきたいですね。

日本は家屋が木造主体だったことから、造っては壊しを繰り返してきました。それが土地重視、建物軽視の価値観につながってきた。しかし今は建設技術も発達したのですから、先ほども申しあげましたが、一〇〇年、二〇〇年と持つような建物を造り、それが人々の生活の中に根付いた風景や文化となったらと思います。

それと古い建物を再生して甦らせることも進めてほしい。博物館的な保存ではなく、生きた建物として光を当ててほしいですね。

今は都市再生ブームにありますが、高齢化の進む日本で投資余力があるのは、今後の一〇から二〇年。公共事業量もピークからは半減していますし、これからも減っていくでしょう。そうした中で、これまであきらめてきていたこと、街並みの整備などに力を入れていくべきだと思います。

努力している企業を社会全体が支援するようになってほしい

シミズもそうですが、CO2削減に積極的に取り組む企業が増えていますが。

環境省の調査では、企業全体の約六割がCO2削減に取り組んでいるそうです。今やどの企業にとっても環境は重要なキーワードになっています。

清水建設さんの資料を見ますと、環境保全コストなども明示されているのは良いことだと思います。またCO2削減に目標を定めて取り組まれるのも大切ですね。中長期的な課題だと思いますが、それを短期的にはどうするのかも柔軟に目標を設定し、具体的な行動計画を定めていただけたら、と思います。

こうした努力というのは、一企業だけではなく、公的機関や建設工事を発注する立場からも支援してもらえたら、と思いますね。消費者団体なども巻き込んで、社会全体の意識がそうなってほしい。

似たような話は、トラック運送業界で出ています。安全性優良事業所という認定があるのですが、この取得はなかなか大変だそうです。そこで経済界に、その取得事業所に出来るだけ発注してほしいと働きかけているようです。ICチップを埋めたステッカーでも貼って、高速料金を割り引くとかできたらいいと思うんですけどね。

頑張っている企業を、さらに誘導するようなインセンティブが働く、そんな社会的な仕組みができたらいいなと思っています。

ありがとうございました。

本ページに記載されている情報やPDFは清水建設技術PR誌「テクノアイ2号(2006年7月発行)」から転載したものであり、内容はすべて発行当時のものです。