気がつけばいつの間にか、AIは私たちの暮らしの中に入り込み、さまざまなシーンで活用されています。清水建設でも総合建設会社という立ち位置ならではの、AIを活用したユニークなソリューションの開発に取り組んでいます。しかも、将来的には建設と並ぶ事業の柱として育てようという意気込みです。
この取り組みの先端で活躍しているのは、かつての建設会社には見られなかったような職能を備えるスタッフたち。今回はそんな顔ぶれをご紹介しましょう。
AIソリューションの源流は中央監視システム
清水建設のAI活用の源流をたどると、1972年にスタートした「中央監視システム」の構築に行き着きます。建物の中に設置されたさまざまな設備機器のデータを収集し、運用から保全まで一括で管理できるシステムです。これは総合ビル管理システム(BECSS/ESMART)として、今でも進化を続けています。
ここにクラウドシステムが利用されるようになり、さらにネットワークの高速大容量化とセンサーやデバイスの進化によってIoT化が進展するとともに、採取できるデータ量が爆発的に増加しました。この膨大なデータ処理を人ではなく、AIにまかせることで自動化・効率化を推進しようというのが、AIソリューションのおおまかな流れになります。
清水建設は総合建設会社としては唯一、ICT設備専門事業部隊を擁し、この分野での積極的な展開を実施しています。推進しているのは、エンジニアリング事業本部 情報ソリューション事業部 システムイノベーション部 AI・IoTグループ。AI・IoT部門では、これまでならおよそ建設会社に入社してくるようなことがなかったような人材が活躍しています。
グループ長を務める越地信行は、前職でAIを用いた空調制御サービスを手がけていました。
「中途入社で清水建設に入ったのが3年前。前職での経歴が評価されたのか、AI活用を事業化するミッションを与えられたというのが、これからご紹介するプロジェクトに至る経緯になります」
人の目と手の代わりをAIにさせる
彼らの成果はすでに、清水建設が埼玉県新座市に開発した先進の大規模物流施設「S・LOGI新座West」に導入されています。そのひとつがBCP対応の早期火災検知システム「火災検知@Shimz.AI.evo」。従来の煙感知器や火災報知器などに加え、煙に含まれるガスを感知するガスセンサーや煙そのものの形状を計測するレーザーセンサーなどIoTセンサからの各種データをAIに分析させ、誤検知を排除しつつ火災の発生を極初期に検知することができます。
また、直近の成果に、食品会社の工場におけるAIによる最終製品検査システムがあります。
従来は製造ラインに検査要員を配置して、人の目で包装を検品し、不良品を排除するのも人手に頼っていたものを、カメラで撮影した商品画像をAIに判定させることで代替するというもの。人手不足を直接的に解消するソリューションとして期待されています。
設備への実装を担当した田中勇記は、次のようなエピソードを明かしてくれました。
「製造ラインは1ラインあたり4レーンあり、構想当初は1ラインにひとつのAIで間に合うかと考えていました。ところが、それぞれのレーンごとに不良の内容や出方に特有の癖があることがわかりました。そこで各レーンごとにAIを用意し、それぞれに癖を学習させる必要に迫られました」(田中)
このプロジェクトは工場の新設と平行して行われました。そのため、開発スケジュールも非常にタイトだったという苦労もあったとか。
「施工開始後に開発がスタートし、しかも竣工までにはすべてを完了させなければなりませんでした。一般的なAIソリューション開発におけるPoC(概念実証)の期間を十分に設定できず、いろいろなことを並走させながら、なんとか実装にこぎつけました」(田中)
総合建設会社だからこそできるAIソリューションを目指して
S・LOGI新座や食品工場のAIの「教育係」を務めたのは、清水建設にAIエンジニア・データサイエンティストとして入社した村松陽太郎です。
「たとえば煙を検知するAIが実際に見ているのは視覚的な煙ではなく、レーザーセンサーが捉える距離データの数値に過ぎません。その数値を『これは煙』、『これは煙ではない』と判断できるようにするには、膨大なデータセットを用意して、AIに煙の特徴とそうでないものの特徴を教え込むというプロセスが必要です。この特徴をいかに捉え効率よく行うかAIを学習させるのかがAIエンジニア・データサイエンティストとしての腕の見せどころ、工夫のしどころです」(村松)
田中も村松も、学生時代に情報科学を学んだ生粋のデータサイエンティスト。そんな人材がなぜ清水建設に来たのかと尋ねると、両者ともAIそのものよりも、AIを使って何ができるか、どのように社会を良くしていけるのかということに関心があるからこそ総合建設会社を選んだと話します。
「AIで何を判断させ、どのようにサービスやソリューションに落とし込むのか考えるときに、AIコンサルのような企業では最終的なシステムや機器の設計・施工・運用といったところまで関与することはなかなかできません。その点、総合建設会社はトータルですべて手がけることができます」(田中)
「わたしも同様の考えです。また、データ分析ということに限っても、ビルはデータを集めるネットワークが整備されており、いつでも容易にデータが得られる環境であることも大きいですね」(村松)
越地は今後の展開を次のように話します。
「AI専業の企業ではAIのことしかできません。その点、私たちは建設から設備や機械、IoTまで、多様な協力会社と連携してすべてを用意することができます。さまざまな事業領域に関わっている総合建設会社だからこそ、汎用性の高いAIソリューションをお届けすることが私たちの使命だと考えています」
まずは、食品工場に適用したAI検品ソリューションの汎用化を目指し、開発を進めていくと意気込む越地たち。総合建設会社だからこそできるAIソリューション。その適用範囲は無限に広がっています。
ビジネスパートナーEDGEMATRIX
エッジAI事業を展開するEDGEMATRIX株式会社は、越地たちのチャレンジを強力に後押しする心強い援軍ともいえる存在です。
担当ダイレクター 荒木義晴氏(左)
米クラウディアンホールディングスから日本法人のAI事業をスピンオフした企業で、創業者の太田洋氏は長らくモバイルデバイス事業に携わり、「写メール®※」を開発したことでも広く知られています。EDGEMATRIX社は、データが生成されるエッジにおけるAI活用に特化し、デバイス、プラットフォーム、ソリューションを提供するビジネスモデルを掲げています。
写メール®は、ソフトバンク株式会社の登録商標です。
清水建設はEDGEMATRIX社への出資を通じてパートナーシップを確立。その高度なテクノロジーを自社のAIソリューション事業にも積極的に適用していく予定です。