清水建設が新たに開発した「ZEB Visualizer」は、建物の省エネ性能を仮想空間でシミュレーションできるコンピュテーショナル・デザインツール※1です。BIM※2のデータが連携可能で、複数の3Dデザイン案をシミュレーションしながら、建物の省エネルギー性能を評価し、最適化することができます。この「ZEB Visualizer」がZEB※3の普及に貢献するのは間違いないでしょう。
コンピュテーショナル・デザインツール:デザインしながら構造や環境性能を同時に検証できるツール。工学的な裏付けを持ったデザイン案の作成に役立つ。
BIM(ビルディング インフォメーション モデリング):意匠・構造・設備など、建築物に必要な様々な情報をコンピューター上に作成した3次元のデジタルモデルに落とし込めるツール。
ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル):建築計画の工夫や技術によってエネルギー消費を極力小さくする一方、太陽光発電などによってエネルギーを自給し、トータルのエネルギー消費量の削減を目指す建物のこと。削減するエネルギー消費量の割合によって、3段階に分類される。
ZEB | 100%以上の削減 |
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Nearly ZEB | 75%以上の削減 |
ZEB Ready | 50%以上の削減 |
環境に優しく、設計者に厳しいZEB
清水建設は日本初のZEBを達成した「生長の家“森の中オフィス”」に加え、稼働後1年間の運用実績においてZEB Ready相当のエネルギー削減率を達成した「清水建設 四国支店」など、省エネ性能が高い建物に積極的に取り組んでいます。そんな中、設計の現場では一つの課題が浮き彫りになっていました。
清水建設 設計本部設備計画・開発部 矢川 明弘
それは「建物の設計が固まるまで、省エネ性能の評価ができない」ということ。
省エネ性能を正しく評価するためには、階数や部屋の大きさに加え、屋根や外壁、床の素材、窓、空調、照明の数量などが決まっていなければいけません。そのため、設計が固まった段階で、いざ省エネ性能を評価してみたら目標値に届かず、また設計をやり直すという手間がかかっていたのです。
「どうにかして設計者の負担を減らせないだろうか?」
この課題を解決したのが、設備計画・開発部の矢川 明弘です。
数週間の作業をわずか1日に
矢川が開発した「ZEB Visualizer」の3Dモデルには外壁・屋根・床等の建築部材データや、部屋の用途ごとに空調・換気・照明・給湯設備の仕様があらかじめ設定されています。設計者は、このデフォルト仕様をベースに、設備機器の仕様等を変更しながらシミュレーションが行えるのです。例えば外壁の素材や空調設備などを変えることによって、省エネ効果にどのような差が生まれるかを検証しながら、複数のデザインプランを検討するといった具合です。
これまでは実施設計レベルまで固めたデータを元に、建物の用途や全ての部屋ごとの建材などを申請用のエクセルにまとめなければ、ZEBの性能評価ができませんでした。そのエクセルデータは19枚ものシートに分かれていて、入力には数週間程度の時間がかかっていたのです。
しかし、「ZEB Visualizer」なら設計の初期段階で検証できるうえに、データ入力も1日程度に短縮。実際に作業をする現場からも、「負担が減り、提案のスピードや精度が増す」と喜びの声があがっています。
データの可視化がもたらすものとは?
建物を建てるためには、発注者を始め多くの人々が関わります。線だけで描かれた図面や膨大な数値が羅列されたエクセルを読み込んで、完成形や環境性能をイメージできる方は少数派でしょう。
「ZEB Visualizer」であれば、「目標とする省エネ性能を満たし、なおかつデザインなどの要望を叶えた建物はどのようなものか?」が一目瞭然なため、関係者間での意識共有もスムーズになります。すなわち、ZEBの普及をより加速させることにもつながるのです。
次のターゲットはエネルギーの流れ
現在、ZEBを建築する際に問われるのは、設計時点での省エネ性能です。しかし、自動車の省エネ性能がドライバーの運転状況によって想定通りの数値が出ないように、建物も利用者の使い方次第で省エネ効果は変わってきます。
「将来は建物内でのエネルギーの流れを可視化したい」と次を見据える矢川。
彼は「ZEB Visualizer」以前にも、3Dモデルを使って建物内での空気の流れをシミュレートするツールを開発しています。空気やエネルギーなど、これまで見えなかった要素を3Dモデルの中で可視化できれば、より高い省エネ効果を持った建物の実現も可能になるでしょう。
可視化がもたらす真価が発揮されるのは、まだまだこれからなのかもしれません。