2017.04.24

テクニカルニュース

防災・減災

重要設備機器の安全性を向上させる「安震スライダー」、実案件に初適用

当社は、免震支承「安震スライダー」を用いて、大地震時における重要設備機器の安全性を向上させる機器免震システムを開発し、このほど初めて実案件に適用しました。

東日本大震災では、施設本体の被害が軽微であったにもかかわらず、変電設備を収納するキュービクルが被災したために電源が喪失し、製造ラインが停止した生産施設が数多く見受けられました。地震によるキュービクルへの入力加速度が1Gを超えると、内部の機器が損傷するだけでなく、キュービクル自体が転倒する可能性もあります。特に、ビル屋上に設置されたキュービクルでは、階数が高くなるほど入力加速度が増幅され、揺れによる被害を受けやすくなります。

本システムは、キュービクルの架台とその基礎との間に特殊な免震装置(安震スライダー)を設置することで、震度6強を超える大地震時においても、キュービクルへの入力加速度を0.3G程度に低減するものです。また、大地震には免震機能を発揮する一方、強風には反応しないなど、屋外に設置する設備などに最適な機器免震システムとなっています。

生産施設や病院などのキュービクルへの適用はもちろん、屋内に設置されたサーバーや精密部品のストッカー等に対しても適用可能です。

日本ピラー工業(株)と共同

安震スライダー設置状況(赤色の鋼材は仮固定金具)
安震スライダー設置状況(赤色の鋼材は仮固定金具)

安震スライダーの概要

本システムは、当社が2014年に日本ピラー工業(株)と共同開発した立体自動倉庫向けの部分免震システム「ラックベーススライダー」をバージョンアップし、屋外設置型キュービクルなどにも対応可能としたものです。特殊な免震装置(安震スライダー)を対象物の架台と基礎との間に設置することで、 震度6強~7クラスの大地震時においても、対象物への入力加速度を0.3G程度に低減することができます。

システムの概要

システムの要となる免震支承「安震スライダー」は、免震化対象物の下に固定する上部部材「上沓(うわしゅう)」と、上部部材と直交する形で基礎の上に固定する下部部材「下沓(したしゅう)」、そして、二つの部材に挟まれたスライダー「摺動子(しゅうどうし)」から構成されます。上沓と下沓には、それぞれ摺動子と接触する面に「すべり板」が備えられており、地震時にはこのすべり板の間を摺動子が水平にスライドする仕組みとなっています。

摺動子の表面には摩擦材となる「すべり材」がつけられており、強風時には摺動子がスライドせず、入力地震動が250~300galになるとスライドをはじめ、それ以上の加速度を対象物に生じさせないよう摩擦係数が調整されています。風圧のかからない屋内設置の場合等には、さらに小さな地震入力加速度でスライドをはじめるラインナップも用意されています。また、すべり板には対象物を元の位置に戻すための傾斜(∧・∨型の直線)がつけられており、平常時には摺動子が上沓と下沓の中央に位置するようになっています。

安震スライダーの構成
安震スライダーの構成

地震時の動き

地震が発生すると、摺動子が下沓のすべり板上をスライドすると同時に、上沓のすべり板が摺動子の上をスライドします。互いに直交する上下のすべり板がそれぞれスライドすることで、あらゆる水平方向の揺れに対して免震効果を発揮します。また、揺れが収まると、免震対象物の自重とすべり板の傾斜により摺動子が元の位置に戻ります。傾斜によって生じるスライド時の上下変位はわずかで、キュービクルへの影響はありません。

地震時の動き

適用実績と実証実験

適用実績

「安震スライダー」の実用化第一弾は、日本ピラー工業(株)三田工場の敷地内に設置した屋外キュービクルです。規模は、幅260㎝、奥行き260㎝、高さ265㎝、重量14tで、安震スライダーを4台設置しています。

適用実績と実証実験

実証実験

「安震スライダー」の実用化にあたっては、当社技術研究所「先端地震防災研究棟」の大型振動台で振動実験を行い、性能や揺れの範囲を検証しました。実験はキュービクルの内部に設置される変圧器(トランス)や接続されるケーブルも含めて、実大のシステムに対して行いました。ケーブルは免震性能に悪影響を及ぼさないよう、変形追従可能な弛みを持たせています。

阪神淡路大震災(1995年)の他、新潟県中越大震災(2004年)、東日本大震災(2011年)の揺れで実験を行い、様々なケースの地震に対して免震効果が得られることを確認しています。

阪神淡路大震災の揺れを再現した実験