2011.12.21

テクニカルニュース

省エネ

地下水を熱源とする高効率ヒートポンプ空調システム

当社と国立大学法人 信州大学は、地下水を熱源として利用する「地下水制御型高効率ヒートポンプ空調システム」を開発し、現在、信州大学工学部(長野市)にて実証実験を行っています

地中熱の代表的な利用法には、地中に設置した熱交換機(ヒートパイプ)を介して地盤から間接的に採熱する地中熱交換型と、地下水をヒートポンプの熱源として直接利用する地下水利用型があります。本システムは、高効率化や経済性の向上を図れる可能性のある地下水利用型を採用しています。

地下水利用型は、取水井で地下水を揚水しヒートポンプの熱源水として利用した後、注水井から地盤に還水します。地下水温度は年間を通じてほぼ一定(年間平均気温程度)ですが、ヒートポンプでの熱交換により夏季の還水は地下水温度よりも高く、冬季の還水は地下水温度よりも低くなります。

本システムでは、地下水の温度特性や還水温度を最大限利用する井戸配置技術、顕熱潜熱分離空調を採用した2次側空調システム、新たに開発した地下水専用水冷式ヒートポンプ(室内温度制御用)により、システム全体として大幅な省エネと空調効率の向上を図っています。特に、新開発のヒートポンプは、地下水を直接空調の熱源として使用する「フリークーリング運転」、動力を使う「熱源機運転」、二つを同時に動かす「ハイブリッド運転」が可能で、地下水温に応じて最適な運転モードを自動的に選択し、省エネを図ります。また、還水時の目詰まり発生などのトラブルを回避するため、熱源となる地下水の浄化を行う水質制御装置を開発し、長期安定運転が可能となっています。

本システムは、従来型のビルマルチ式空調システムに比べて約1.7倍以上のエネルギー効率を目標としています。当社は、実証実験の結果や商用実機の設計検討などを踏まえ、2013年2月までに空調効率を総合評価し、システムの性能を検証するとともに、早期の実用化を目指します。

独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発委託事業。


一般的な地下水利用型ヒートポンプ空調システム


システムの概要

本システム(実証実験用装置)は、熱源となる地下水の揚水と注水に用いる井戸設備、地下水の水質浄化を行う水質制御装置、室内顕熱処理と外気処理用のヒートポンプ、および2次側空調システムなどで構成されます。

取水井から汲み上げた地下水は、水質制御装置で水質浄化され、室内温度制御用の地下水専用水冷式ヒートポンプおよび、導入外気の湿度調整用ヒートポンプの熱源として利用した後、注水井から地中に還水します。


実証実験用の地下水制御型高効率ヒートポンプシステム

■還水の蓄熱効果を効果的に利用

本システムでは、現地の水理地質構造や自然地下水流の有無に応じて、還水の蓄熱効果を最大限に活用できる井戸配置を行います。例えば、自然地下水流がない場合、取水井と注水井の熱干渉(ショートサーキット)を回避できる離間距離を確保し、夏季と冬季で取水井と注水井を切り替えることで、還水の蓄熱効果を利用することが可能です。

粘土層と帯水層が互層で自然地下水流が比較的大きい実証実験サイトでは、還水の蓄熱効果を活用するため、取水と還水には2つの帯水層を利用し、それぞれの層に取水井と注水井を2本ずつ設けています。地下水流の下流側が取水井、上流側が注水井となっており、冬季は夏季に使用済み地下水を還水した帯水層から取水し、逆に夏季は冬季に使用済み地下水を還水した帯水層から取水する仕組みとなっています。

■フリークーリング機能を備えた地下水専用水冷式ヒートポンプ

顕熱処理用(室内温度制御用)の地下水専用水冷式ヒートポンプでは、冷水製造温度を16℃、温水製造温度を35℃とするなど、従来型の冷温水製造温度(冷水7℃、温水45℃)よりも条件を大幅に緩和して省エネを図ります。

また、冷房運転時は地下水温に応じて、フリークーリング運転(16℃以下)、熱源機運転(18℃以上)、ハイブリッド運転(16~18℃)を自動的に選択して省エネ性能を高めます。実証実験サイトの地下水温度は約14℃のため、フリークーリング運転による高い省エネ性能を発揮できると予想します。


実証実験の概要

実証実験では、本システムを採用する2教室(空調床面積:各110m2)と、オフィスビルで最も普及しているビルマルチ式空調システム(熱源:空気)を採用する1教室(空調床面積:約110m2)の空調効率を比較します。

すでに今年11月から冬季実証運転(暖房運転)を実施しており、来年6月からは夏季実証実験(冷房運転)を行う予定です。それぞれの実験の結果を踏まえ、2013年2月までに空調効率を総合評価し、システムの性能を検証します。


設備ヤード

■水質制御装置の効果も検証

地下水には、シルトや砂に加え、鉄やカルシウム、マンガンなどの成分が含まれており、これらが配管や注水井を目詰まりさせ、システムトラブルや地下水位の低下による地盤沈下を引き起こす可能性があります。そのため、本システムは、現地の地下水の条件に応じた水質浄化のための水質制御装置を備えています。図は、実証実験サイトの水質条件に対応した水質制御装置の機器構成です。実証実験ではその効果についても検証を行います。


水質制御装置の構成(概略)


水質制御装置ユニット


軟水機(イオン交換樹脂)