2006.12.07

テクニカルニュース

生産技術

世界一の斜張橋を実現した技術

バイチャイ橋が架かるハロン湾は、ベトナムでも有数の台風襲来地域です。そのため、完成後はもちろん、施工時における数々の難題を克服するための耐風対策が行われました。

今回の工事では、様々な建設技術が適用されましたが、世界で初めての試みも多く、当社の技術力は内外で高い評価をいただいています。


課題を明確にした風洞実験と3次元FEM解析

■風洞実験

設計風速は、国内の台風襲来地域と同様、主桁の高さ(地上50m)で時速180km(10分間平均風速50m/秒)となっています。

施工時および完成時の耐風性能を検証するために、精密に再現した3次元全橋モデル(実物の1/150)を用いて風洞実験を行いました。その結果、施工時、完成時ともに、所定の耐風安定性を確保していることを確認しています。また、主桁断面の数値流体解析を行い、風の影響を検証しました。


全橋モデル実験(東京大学風洞)


数値流体解析

■主桁の3次元FEM解析

橋の施工にあたっては、3次元FEM解析による検証を実施しました。解析モデルは、柱頭部、メインスパン部など検証する部位のみを詳細にモデル化し、それぞれ作成しました。

解析の結果、斜材緊張時に過大な引張応力が上床版に発生することが明らかになり、鋼管ブレースの剛性を高めるなどの対策を行いました。


3次元FEMモデル
(中央閉合部用全橋モデル)


3次元FEMモデル
(主桁ブロック)


難題を克服した最新技術

■制振装置による主塔の風揺れ対策

主塔の風による振動の抑制には、設置スペースとメンテナンスフリーの観点から、液体ダンパーによる制振装置(スーパースロッシングダンパー)を採用しました。FRP製容器に水を封入した分散型液体ダンパーを主塔用に開発し、主塔1基あたり344個設置しています。

設置前後の振動実験では、振動の影響を58%低減することを確認しました。従来、液体ダンパーは高層ホテルやタワーなどに採用されていますが、PC斜張橋の主塔に本設使用するのは、今回が世界でも初めてです。



液体ダンパー


主塔断面図

■世界初採用のコンパクトダクト

今回、世界で初めて採用されたコンパクトダクトと呼ばれる小径斜材保護管は、外径が従来品の80%とコンパクトなため風の受圧面積を小さくして荷重を低減できるとともに、表面に付けられた二重らせん補強材により風雨時に起きる振動を低減します。

また、斜材のケーブルには、風の影響を受けづらく、水密性、耐衝撃性に優れたものを採用し、さらに保護管内の隙間を減らすために、挿入方法にも工夫が施されています。

主塔だけでなく、斜材にも制振装置を採用しました。斜材下段から高減衰ゴムダンパーを8基、内部油圧ダンパーを10基、内部ラジアルダンパーを10基、主桁側に設置しました。

■鋼管ブレース

主桁の箱桁内には鋼管ブレースを採用して軽量化を図っています。鋼管ブレース及びその接合部の耐力は、1/2モデルを用いて載荷試験を行い、確認しました。


主桁の箱桁内に採用された鋼管ブレース


耐力確認試験


高品質・短工期を実現した施工時大規模計測システム

今回の工事では、光ファイバーセンサー、風向風速計、温度計、加速度計、傾斜計、応力計、ひずみ計などを構造物の各所に設置し、計測データを施工管理にフィードバックする施工時大規模計測システムを開発・適用しました。

■光ファイバーセンサー

主塔、主桁の変形計測システムでは、全長2.5kmにわたる光ファイバー分布ひずみセンサー(B-OTDR方式)を敷設しています。橋梁工事で、これほど大規模にB-OTDR方式を適用したのは世界でも初めてです。

光ファイバーセンサーは長寿命なため、完成後もモニタリングを行い、維持管理に活用して、安全性を確認していきます。

■施工時計測

施工時計測では、傾斜計、温度計、荷重計、鉄筋計、3軸ひずみ計、気象観測装置など既存のセンサーを利用しています。計測は10分ごと自動的に行われ、結果は1時間ごとに保存され、施工管理に活用されました。

さらに、CCDカメラ、風向風速計で施工中における台風などの強風を定量的に把握し、加速度計で橋に対する影響をモニタリングしました。