2012.11.28

テクニカルニュース

防災・減災

大地震と大津波から人命を守るハイブリッド津波避難ビル

当社は、震度7クラスの大地震や波高20mクラスの大津波に耐える津波避難ビル「アーチ・シェルター」を開発しました。

アーチ・シェルターは、楕円形の筒状外壁「アーチウォール」とその内部に組み込まれた免震建物「インナービル」から構成されており、大地震発生時にはインナービルが地震力をかわし、アーチウォールが地震に続く津波の外力に耐える二重構造となっています。アーチウォールの外周にはバルコニーを設けて津波による漂流物から本体を守ると同時に、バルコニーに設置された外部階段から周辺地域の避難者を受け入れることができ、緊急時には入居者と避難者を合わせて最大2,400人の命を守ります。建設費は、同規模の一般的なビルの約1.5〜2倍になります。

本建物は、大震災が発生した際でも事業継続が可能であることはもちろん、発生直後は避難所として、また、その後は復旧拠点として機能するため、沿岸部の防災拠点となる事業所、医療施設、公共施設などに適しています。


耐波・免震の二重構造で人命と資産を守る

アーチ・シェルターは、大地震発生時にインナービルで地震力をかわし、建物を取り囲むアーチウォールで地震に続く津波の外力に耐える二重構造を採用しています。

低層部はピロティーとして津波を通過させて流水圧を軽減し、アーチウォールの外周にはフロアごとにタガの役割を果たす全周バルコニーを設けて構造体の剛性・耐力を高めるとともに、漂流物の衝突から建物本体を守ります。また、バルコニーには外部階段を設け、周辺地域からの避難者が階段伝いに高層階に避難できるとともに、高層部のバルコニーは避難スペースにもなります。

収容人員は、インナービルの各階約300人、屋上約300人、アーチウォールの6階以上のバルコニー部約300人を含めて最大2,400人(1人あたり2m2)で、約3日間の電力と生活用水を確保することも可能です。

■アーチウォール

アーチウォールは、楕円の筒状構造(アーチ構造)となっており、この形状により津波の外力を受け流します。

内側の空洞内には隔壁とアーチウォール、底盤で区画したインナービルの建設空間を設けます。また、隔壁と楕円の両脇の間にできる半円状の空間には階段室等のコア部分を配置。窓は、津波の圧力に耐えることができるよう、ポリカーボネート(高機能透明プラスティック)と強化合わせガラスを組み合わせた精密窓としてます。


1階平面図:隔壁で囲われた4つの内部階段が、内部への水の侵入を防ぎながら、各階、屋上へのスムーズな避難を可能にし、また、バルコニーから屋上につながる4つの外部階段が最後まで外部からの避難を可能にする

■インナービル

インナービルは、ピロティー上部に免震装置を設けた底盤の上に建設。アーチウォールと底盤、隔壁により完全に独立区画されているので津波が侵入することはありません。万一、浸水した場合は、ビル中央部の吹き抜け空間に設置された階段を使って屋上に避難できます。


2〜7階平面図:万一の浸水時には、中央部の吹き抜けに設置された階段から屋上に避難できる

■ニーズに応じた多様な展開が可能

アーチ・シェルターは、想定される津波に応じてアーチウォールの高さや壁厚を任意に変更することができます。また、インナービルを高くすることで、より多くの人数を収容することも可能です。


基本プラン:津波想定高さ20m、7階建て、収容人員2,400名


収容人員を増やしたプラン:津波想定高さ20m、15階建て、収容人員4,000名


実験と解析により大津波に耐えることを確認

アーチ・シェルターが波高20mの津波外力に耐えられることは、水理模型実験と3次元流体解析および構造解析で確認しています。

■水理模型実験と3次元流体解析の比較検証


水理模型実験


3次元流体解析:津波衝突時の波形を良好に再現

■構造解析


津波外力に対して発生する外壁内の応力は、アーチ構造により均一化され、波高20mの津波外力に耐えられることを確認しました。


津波避難シミュレーションシステム

当社が保有する「津波避難シミュレーションシステム」により、地域住民がアーチ・シェルター内に効率よく避難できるルートを提示することが可能です。

■シミュレーション例

外部からの避難者1,800人が10分間で避難した場合のシミュレーション例(前半5分を5倍速で設定)。内部の4階段、外部の4階段から滞留することなく避難できる