2012.04.18

テクニカルニュース

防災・減災

津波の挙動や津波荷重を3次元モデルで詳細に予測

当社は、津波の挙動をリアルに再現すると同時に、建物に作用する津波荷重(津波の力)を予測する「津波総合シミュレーションシステム」を開発・実用化しました。

本システムは、津波が陸上を遡上して建物に衝突したり、建物内に浸入する様子を3次元で再現しながら、建物に作用する津波荷重を精度よく算定します。また、津波の発生源となる断層破壊については、従来の解析で仮定していた一度に破壊する状況だけではなく、徐々に破壊が進行する状況まで考慮したシミュレーションが可能になりました。

今後は、本システムにより、市街地を遡上する津波の複雑な挙動や建造物に作用する津波荷重を明らかにするとともに、沿岸部に立地する重要構造物の津波に対する構造安全性の検討や津波対策の立案などを通して、津波防災に貢献していきます。

3次元モデルで再現した津波が伝播する様子(3分間の動画を35秒間で表示)。
水位が高い部分を赤く示している。

津波の複雑な挙動を3次元モデルで再現、津波荷重を精度よく予測

これまでの津波荷重の評価は、内閣府策定のガイドライン(2005年6月)に示されている簡易算定式を用いることが多く、当社でも同じ算定式を採用してきました。この算定式は建物が存在する位置での浸水深をもとに、建物に作用する津波荷重の最大値を簡易的に求めるものですが、津波の衝撃力や建物内部で発生する荷重、荷重の時間的な変化、地形の影響などは十分に考慮されていません。

本システムは、流体の挙動をリアルに再現できるVOF法を導入して津波の3次元的な動きを高精度に再現するものです。これにより、建物や周辺地形を考慮した上で、津波荷重の算定精度を従来の算定式に比べ飛躍的に向上させました。例えば、本システムを用いると、津波が防波堤を越えて激しく打ちあがり、建造物に衝突する一連の動きを再現しながら衝撃的な津波荷重を解析することが可能です。

VOFVolume of Fluid)法…流体挙動の解析手法の一つ。液体容器などの閉じた空間で発生する流体のスロッシング現象(容器がゆっくりと大きく揺れた際に、共振によって流体が大きく波立つ現象)の解析などにも用いられる手法で、流体の激しい運動を詳細に再現することができる。

解析例:画面左が建物外部、右が建物内部の様子。津波荷重は、津波が建物の外壁にぶつかる瞬間だけではなく建物の内部の壁面にぶつかる瞬間にも大きくなる。

■高速演算技術やスーパーコンピュータを活用し、大規模な解析領域に適用

VOF法は、流体の動きを詳細に再現できる反面、膨大な演算が必要となるため、一般的には津波の遡上のように広域にわたる流体解析には不向きと考えられてきました。しかし、当社がこれまで培ってきた高速演算技術やスーパーコンピュータ「TSUBAME2.0(東京工業大学)」を活用することで、大規模な解析領域への適用を可能としました。

3次元モデルで再現した津波が伝播する様子(4分間の動画を50秒間で表示)

■連動地震による津波も再現可能

本システムでは、一つの断層が一度に破壊する状況だけでなく、複数の断層が連動して破壊する状況を考慮したシミュレーションを行うことも可能です(平面2次元モデル)。対象とする沿岸域での津波高さが最大となる場合を含めて、様々な条件設定に基づく津波のシナリオを複数検討することができます。


大規模な解析領域の3次元モデル化技術

建物の形状や地形の3次元データを作成することは、これまで非常に手間と時間がかかるプロセスでした。このような大規模な解析領域のモデリングについては、当社がこれまで風環境解析などで蓄積してきた3次元モデル化技術を応用し、短時間で再現精度の高いデータ作成が行えるようになりました。

具体的には、地形と建物の2種類の3次元データを組み合わせて1つのデータとし、これに異なる大きさのメッシュ(荷重と速度を計算するポイントの密度)を自動的に設定する方法を導入して、解析の効率を向上させています。


解析に用いる計算メッシュ例(表面のみを表示):建物や堤防などの建造物は細かくメッシュ化されている

■開発者の一言


技術研究所
長谷部主任研究員

今回開発したシステムでは、地形や街区の形状、到来する津波の様相など地域毎にさまざまに異なる条件を考慮することができますので、お客様の実情に即した合理的な津波対策提案か可能になると考えています。また、今後ますます本格化する東北地方の復興計画や、他の地域での津波防災計画などにも役立てることができればと思います。

今後は、こうした実務での運用・展開を図る一方で、津波被害のメカニズム解明にも本システムを活用し、新たな津波防災技術の開発に結び付けていくことも考えています。