2010.10.13

テクニカルニュース

維持・保全

目指せ百年後の土木遺産「新・余部橋りょう」

JR山陰本線 鎧(よろい)駅~餘部(あまるべ)駅間に建てられた余部鉄橋。同橋は、安全性と定時性確保を目的に、2007年から架け替え工事が行われ、去る8月12日、新しい橋梁として生まれ替わりました。

新しい橋梁は、5径間連続PC箱桁エクストラドーズド橋という形式を採用したコンクリート橋です。日本海に面した余部の厳しい自然に耐えるため、さまざまな強風対策や塩害対策が施されています。工事中は、既設鉄橋と新しい橋梁の間が30cmと近接していたため、列車運行と施工の安全確保に努めました。また、長さ90m、重さ3800tの橋桁を平行移動・回転させるという土木史上類のない工事も、当社技術研究所でシミュレーションと実験を重ねるなど万全の体制で臨み、無事に完了することができました。

架け替え前のトレッスル式高架橋「余部鉄橋」は、1912年の完成当時、鉄橋として東洋一の規模を誇りました。そして、完成後およそ100年にわたり、悠然とそびえ続けた赤く美しい橋は、その優れた設計や施工技術が高く評価され、土木学会の「近代土木遺産」最高のAランクに指定されました。この旧鉄橋同様、新しい橋梁が100年後も愛され、使い続けられることを、工事関係者一同、心から願っています。


架け替え前の余部鉄橋


8月12日、開通初日の余部橋りょう


余部橋りょうの概要

新しい橋梁は、長さ310.6m、高さ41.5m、幅7.25mで、橋台2基と橋脚4基から構成されています。

橋桁の両側には防風壁が設置され、風速30m/秒までの列車運行が可能となりました。また、防風壁は透明なアクリル製となっており、列車内からの眺望も確保されています。

■高品質な構造体

余部橋りょうは日本海に面しているため海水の飛散が激しく、鉄橋は架設以来サビに悩まされてきました。新しい橋梁は、耐塩害性の高い躯体を実現するために、密度が高くひび割れのないコンクリートにより構築されています。解析や実験により、コンクリートの最適な配合や鉄筋からコンクリート表面までのコンクリートのかぶり厚さを最大200mm(通常の2~3倍)にするとともに、特殊な繊維片による補強で剥落防止を図り、さらなる安全性を確保しました。


万全の備えで、土木史上類のない難工事を無事完了

最大の課題は、地上40mの高さで、長さ90m、重さ3800tという巨大な橋桁を4m平行移動し、5.2度回転させるという、土木史上類のない工事でした。

当社では、技術研究所で1/10モデルを用いた模型実験を行い、実験結果を基に施工時の橋桁の挙動を解析し、施工計画に反映しました。今年の7月20日に行われた平行移動では、5台の油圧ジャッキを用いて1分間に30cmというゆっくりとした速度でしたが、橋桁を1時間強で所定の位置に設置することができました。また、7月23日に行われた回転工事も1時間程度で完了しました。

平行移動・回転時の橋桁の挙動は、いずれもほぼ実験・解析から想定した通りで、難工事に対する万全の備えが実を結びました。


平行移動前


平行移動後


回転完了後


橋梁の耐風予測技術を超近接施工へ適用

新しい橋梁は既設鉄橋に近接して施工しましたが、最も接近しているところではその間がわずか30cmしかありません。加えて、急峻な山に挟まれた谷部である余部は、国内でも有数の強風が吹く場所です。

当社は、現地に3次元風向風速計を3ヶ所に設置して風況を常時計測するとともに、そのデータを常時技術研究所に転送して架設中の橋梁が列車運行に及ぼす影響をシミュレーションするなど、列車運行と施工の安全確保に万全を期して工事を行いました。


余部付近の風況解析結果:風が収束して強く吹き付けるところに橋が架かっている


移動作業車周りの風況解析結果:風が渦巻き(青の部分)、列車への影響が大きい


工事の概要

工事名称 山陰線鎧・餘部間余部橋りょう改築他工事
発注者 西日本旅客鉄道株式会社
工事箇所 兵庫県美方郡香美町香住区余部地先
工期 平成19年3月8日~
平成23年2月24日
構造形式 5径間連続PC箱桁エクストラドーズド橋
橋梁諸元 橋長310.6m、幅員7.25m、
最大支間長82.5m
基礎形式 杭基礎(場所打ち杭、深礎杭)
その他 餘部駅改築工事、既設橋脚撤去工事 他